終7章「理解しろ」
「この世界の人間じゃ無い?」
ゼノにはリリーの言葉の意味が理解出来ない。
「何を言っているんだ? この世界もあの世界も無えよ……そんな嘘を聞きたいんじゃない!」
リリーの告白を聞いてもゼノは決して剣を納めない。
「この世界の人間では無い……そうか!」
「ネシア? 何がわかったんだ?」
ベルが問いかけてもネシアはぶつぶつ呟くだけで、完全に一人の世界へ入り込んでしまっているらしい。
「ゼノ、お前本当はわかっているんじゃ無いか?」
それまで余り発言しなかったイデアルがゼノに問いかける。
「俺は見たぞ、ノースクで。アンドロイドが出来上がった経緯をな」
「五月蝿い(うるさい)!」
錯乱し剣を振り回すゼノ。
しかし、力が入ってなかったのか、振り回す内に剣が手から抜け落ちる。
同時にゼノも地面にへたり込む。
「ゼノっ!」
リリーはそんなゼノを抱き寄せる。
「なあリリー、この世界の人間じゃ無いってなんだよ……俺が今までやってきた事は無駄だったのかよ」
「いいえ! 違う、違うわ! 決して無駄じゃない!」
二人の目からは涙が溢れている。
「私の両親は科学者だったの……」
ポツリと話し出すリリー。
皆は口を挟む事無く、聞き始める。
「私が8才の時、私の世界で災害が起きたの」
「災害?」
「ええ、空間に穴が開く災害、名称は忘れたけど、その穴に落ちた者は行方不明になったわ」
リリーは自身の世界で起きた事を話す。
それは到底信じられるものでは無かったが、リリーが嘘を言っているようにも思えなかった。
「その穴の中に私の母も落ちてしまった」
「まさか!」
ぶつぶつと呟いていたネシアが突如叫ぶ。
「ええ、そのまさかよ。2000年前この世界にやってきた『科学者』は私の母よ」
皆リリーの発言に開いた口が塞がら無い。
特にイデアルが一番動揺し、ガタガタと身体を震わせている。
「本来魔法しか無かったこの世界に化学を持ち込んだのは私の母、この世界をめちゃくちゃにしたのは私の母なの!」
次第に声を荒げ始めるリリー。
今まで堰き止めていた物を、今全て吐き出そうとしていた。
「ネシア、貴方言ったわよね? 私のデータが無いって。当然よ、私はこの世界の人間じゃ無いもの、あのモニターにもカウントされる訳無いじゃない」
言葉を発する者は誰もいない。
「アルビオンが暴走した理由も察しが付くわ。データの無い人間に対して過剰反応してあんな行動に出たんでしょうね」
リリーは号泣していた。
もうリリーには気丈に振る舞う気力は無く、ただ真実を伝えようとしているだけだった。
「全部私のせいなの! 母を探してこの世界に来た私のせいよ!」
「リリーのせいじゃ無い!」
立ち上がったゼノは強く叫ぶ。
「リリーは何も悪く無いじゃないか!」
ゼノはまわりのアンドロイド達に問いかける。
「勝手にエラーを起こして暴走して……データに無い? ふざけるな! リリーは誰にも危害を加えてないだろ! やったのは全部アルビオンだ!」
「そうですね、アルビオンは不完全です」
同意するネシア。
イデアルも首を縦に振っている。
「リリー、お前は人間を殺したのか?」
ベルが問いかける。
「そんな訳無いじゃない!」
「だったらリリーは何も悪くないじゃないか、ネシアも言ったが、悪いのはアルビオンだ。理由がどうであれエデンの人達を殺戮するよう命令したのはアルビオンだ」
淡々と語るベルに今度はゼノも同意する。
「あの時エデンの人達は皆必死に俺達を助けようとしてくれた、ガンデスもだ、俺はその人達の思いを無駄にしたくない」
「ゼノ……」
「行こう、リリー」
ゼノが手を差し伸べる。
リリーもその手を取る。
「決まりだな、俺達の敵はアルビオンだ」
「ああ、だが出来ればオーも助けたい」
ゼノがオーについても話す。
「まじかよ……俺の身体の本来の持ち主って訳か」
「そうだ、俺はオーも助けたい」
ゼノの決意は固い。
その顔を見て、周りの者も諦めてゼノに同意する。
「しかたねえな!」
「ええ!」
「やってみる価値はありますね」
ベル、リリー、ネシアは部屋を出る。
「イデアル?」
「あ、ああ……」
少し上の空のイデアル。
ゼノは不安に思ったのか、改めてイデアルに確認する。
「大丈夫だ、わかってる……わかってるさ」
言いながらイデアルも部屋を出る。
いまいち噛み合わない会話に不安を抱えながらも最後にゼノが部屋出る。
「遅いぞ!」
ベルが言う。
「すまん!」
ゼノは直ぐに不安を忘れ、仲間に合流する。
いよいよ終わりが近づいて来ていた。
仲間内の確執も無くなった。後はアルビオンを破壊すれば全て終わる。
ゼノはそう思っていた。
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