終6章「向き合え」
「おい、本当に信用していいのかあいつ」
「さあ? でも戦力は少しでも多い方がいいわ」
先頭はベル。
その後ろにイデアルとネシアが、最後尾にゼノとリリーの順でエデンへと向かう。
ゼノはネシアの姿をしているアンドロイドを信用したいが、しきれてはいない。
「とりあえず様子を見よう。目的はアルビオンの破壊で俺達と一緒だろ?」
「それもそうね」
道中にアンドロイドの姿は無い。
あくまでノースク等の町にのみアンドロイドが配置されている。
あれ以上の数を作れきれなかったのだろう。
「いい天気ね……」
リリーが空を仰ぐ。
雲一つない青空、自分達が発する以外の音は無い、風も無く、ただ歩くだけ。
――このまま歩き続けていたい。
リリーがそう思っていても、たどり着いてしまう。
エデン管理局。
その玄関口に辿り着いた。
---
「ここだ」
ベルが慣れた手つきでエデンの中を案内する。
それもその筈、ベル自身も何度も来たことがある。
死んでは蘇り、ここまでたどり着いていたのだ。
ベルが案内した部屋には過去ベル自身が見ていた資料の束が多数ある。
ベルはその中の一枚を手に取り、ゼノとリリーに見せる。
それはアルビオンについての記載。
「黒幕はブリッツだったのか!?」
「そんな……」
驚く二人に対して、ネシアはそれを否定する。
「ありえないですね」
「それは何故?」
リリーが問いかける。
「日数です。これらの資料に書かれている日数はどれも現実的な数字じゃありません」
ネシアが持つ資料にははっきり10871日目と書かれていた。
「一万!? そんな日数経ってる筈がない!」
「そうです、あり得ない日数が書いてある。恐らく、ブリッツが我々を欺くためにわざと用意したんでしょう」
落胆するベル。
ゼノは落ちている資料を何枚か拾い上げては目を通してまた違う資料を拾うのを何度か繰り返す。
すると、ベルが見つけたようにゼノも色の違う資料を発見する。
「ベルナンド? なんか似たような名前をしている奴がいたな」
ゼノがベルの方を見る。
「なんだよ……」
偽物の情報を掴まされていた事をまだ引きずっているらしい。
ベルはゼノを睨みつける。
「もし仮にこれが嘘でも本当でもアルビオンに対しての有力な情報は無さそうだな」
「そうみたいね」
そう言ってイデアルとリリーは部屋の外に出てしまう。
ネシアは少しベルとゼノの方を見てから同じく外に出る。
「俺達も行こうぜ」
ゼノはベルの肩を抱き、強引に部屋の外へ向かう。
---
「案外歩くもんだな」
部屋を出た後再びベルの案内でアルビオンの元へと向かう一行。
「そろそろだ、皆準備しておいた方がいい」
ベルの一言で空気が張り詰める。
もうすぐアルビオンにたどり着く、そして同時にブリッツも待ち構えているだろう。
おそらく戦闘は避けられない、皆自然と気合いが入る。
「待って!」
ベル達は立ち止まり声の主へ視線を向ける。
声の主はリリー、そのリリーの目線は一つの扉に向けられていた。
『人間観測記録室』
ベルが見落としていた、特に気にもしなかった扉の前でリリーは立ち止まっていた。
「リリー、もう人間は……」
ーー居ない。
とゼノが言いかけて飲み込む。
「行こう」
ゼノが先程の発言を取り消すように言う。
「おい、そんな所に行っている場合じゃ……」
「イデアル」
ベルがイデアルの肩を叩く。
「行きましょう」
ネシアが部屋の中へ入っていく。
続けて他の者も入っていく。
「全く……」
少し焦っていたイデアルも観念し、部屋の中へ入る。
部屋の中にはベルが見たアルビオン前のモニターより一回り小さいものが一つ壁に立て掛けてあり、左下辺りは壊れているのか、砂嵐が起きていた。
「これ……まさか」
リリーには見覚えがあった。
エデンでのあの日、アンドロイドに連れ去られようとしていた時、みるみる内に減っていった数字。
「生きている人間の数」
リリーの呟きは周りにいる者達にも届く。
皆困惑する、わかってはいたがその数字の少なさに驚く。
しかし、皆が困惑している原因は他にあった。
モニターに映し出されていた数字は『1』。
今この場には、この世界には人間は一人しかいない、このモニターはそう告げていたのだ。
「どういう事だよリリー!」
ゼノが声を荒げる。
「ち、違う! 私は!」
「何が違うって言うんだよ!」
リリーも動揺を隠せない。
ゼノの焦りは相当で、リリーに向け剣を構えてさえいる。
「お、おい! 落ち着けよ!」
慌ててベルがゼノに近寄ろうとする。
「来るな!」
今度はベルの方に剣を向ける。
「多分間違いは無いかと」
「おい!」
ネシアの無神経な発言に思わず声を荒げるベル。
構わずネシアが続ける。
「私は幾度となくアルビオンに侵入しました。アルビオンはAIであり、データベースでもあります。そんなアルビオンの何処を探しても、リリーさん、貴方のデータは存在していませんでした」
空気が更に張り詰める。
「貴方は何者ですか?」
ネシアの言葉は、リリーが人間では無いと言っているのと同じだ。
ゼノは再びリリーの方に剣を向ける。
もう誰もゼノを止めようとはしなかった。
リリーも逃げられないと悟り、その重い口を開ける。
「私は……人間よ」
「まだ言うのか!」
ゼノの剣握る手に更に力が入る。
「でも!」
ゼノの言葉を遮り、リリーが叫ぶ。
「私は……私は、この世界の人間じゃない」
リリーの言葉はリリー以外の者を謎の渦へと放り込む一言になった。
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