第4章
ベルはイデアルの言う通り先へ進み続けていた。
正直今何が起こっているのか訳が分からないまま、その答えを探し求めるようにただただ先に進む。
暫く歩いていると巨大な建物を見つけた。
「エデン管理局……?」
頭の靄が晴れるようにイデアルの言っていた事を思い出す。
西の国エデン、確かにイデアルはそう言っていた、が……。
(何が国だよ、人一人すらいねえじゃねえか……)
ベルの目の前に映る建物は、崩壊し錆びれた一つの大きな建物だけだった。
イデアルが言っていたのはこの建物の事だったのか、ここに何があるのか、全ては謎のままベルは建物の内部へと足を進める。
建物内部の廊下を進むベル。
少し進んだ先に『関係者以外立ち入り禁止』という文字が書かれた扉を見つける。
(いかにもだな……)
ベルは躊躇なくその扉を開ける、扉の先にはさらに廊下が続く。
壁は一面鏡張りで、この場所から下の何かを見下ろしていた様だが、今は所々鏡が割れており下の階にはゴミや何かの物体が辺り一面に転がっており、ベルの位置からではよく見えない。
(地下か?それにしてもよく見えないな、どこかに下に降りる道がある筈だ)
仕方なくベルは他の場所を探す。
更に先に進むと、先程の場所と同じ様に長い廊下に出る。
先程と違う点は、両側には鏡ではなく一定の間隔で扉が配置されている点。
一つ一つ見ていく中でベルは一つの扉の前で足を止める。
‐アルビオン計画管理部‐
イデアルから受け取った石の影響だろうか、もう一つイデアルが言っていた事を思い出す。
――システムアルビオン。
確かにイデアルはそう言っていた。この先に何があるのかまでは知らないが、きっと重要な何かがあるに違いない。
ベルは迷わずその扉の中へ進む。
扉の先は、管理部というには小さめで中心に大きめのテーブルが配置されている。
壁には書類を整理する為の棚が設置されていたのだろうが、誰かが争った形跡があり棚から書類が落ちており地面に乱雑に放置されていた。
「ずいぶん殺風景だな」
ベルは大量の紙がそこらじゅうに散らばっているのに気が付き、何気なくその中の一枚を拾い上げる。
風化しているせいでとてもじゃないが読めたものでは無い。
ふと書類の中でも特に厳重に保管されているものを見つける。
かなり大切な物なのか中々開ける事ができない、ムキになり力任せに開けると中身が一気に飛び出してしまう。
「うおっと」
慌てて飛び出した書類を拾い上げるが、風化した他の書類と混ざってしまう。
「くそっ」
幸い、厳重に保管されていたのもあってその書類群の風化は他のものよりかなりマシで、十分読むことが出来る。
ベルは書類を拾う手を止め、書類に書かれている事に目が釘付けになってしまう。
『‐システムアルビオン管理記録 50日目‐
アルビオンは順調に動いている。
エリア5をアルビオンの試験場にしたのは正解だったようだ、予想以上のペースで本格的に起動できそうだ。
一つ懸念なのは、これをこの先も管理する為に必要なアンドロイドを用意できるかどうかだが、ブリッツの方はうまくやっているだろうか……』
先ほどからアルビオンと言うワードが良く出てくる。アルビオンという物が何なのかはわからないが、イデアルが言うこの世界の秘密というものと関係があるのは明白だった。
そしてもう一つ気になる名前を見つける。
(ブリッツ?どこかで聞いたことのあるような……いや知らないな)
気にはしたもののその名前に覚えが無かったベルは、さらに情報を集める為に、他にも目を通す。
『‐システムアルビオン管理記録 3日目‐
とりあえずアルビオンを既定の位置に置くことが出来た、しかしこの場所の地下だなんてむちゃくちゃすぎる。
もし暴発でもしたらエデンごと破壊されてしまうという事は何回も説明したんだが、上の決定と言うのは理解できん……下の事情等関係ないのだろう……』
(アルビオンはこの場所の地下にあるのか!? そういえばこの大陸の名前もアルビオンだったな、大陸の名前も何か関係が? とにかく、他の物にも目を通さなくては……)
アルビオンについてもさらに探る為、そもそもの経緯を探る為に1日目のものを探す。
システムアルビオン管理記録 12日目 違う!
システムアルビオン管理記録 36日目 これでもない!
システムアルビオン管理記録 18日目 これも違う!!
ベルはひたすらに探し続ける、「あった!」思わず声に出しながら探していた1日目の資料を見つける。
『‐システムアルビオン管理記録 1日目‐
上の決定で今日からアルビオンというプログラムを起動・管理していく事になった。
自分の中でも最大のプロジェクトなので管理記録というものを付けたいと思う。
そもそもアルビオンとは何か?
現在このエデンが確認している人間の総数は約500人とされている。
度重なる『自然災害:次元壁』によってその数は多く減らしている。
次元壁は何の共通性や法則を持たず突如現れ人々を次元の裂け目へ飲み込むというものだ。
行き先は判らず、生きているのか死んでいるのかも判らない。ただ確実に人数は減っている。そんな環境でエデンは秘密裏にアンドロイドの導入を進めていた。
人間の数に対して土地面積が広すぎるのだ。
今の人数では管理仕切れない。何か人間以外が管理できる方法は無いかと考え、人間の機能を模し、機械の身体を持つアンドロイドの開発が決定された。そしてアンドロイド開発に加え土地管理機能を持つプログラム、アルビオンの導入も決定された。
だが私はこのアルビオンというシステムを余り良く思っていない。人工AIを搭載し、とても優秀なのだが、プログラム自体のプロテクトが貧弱過ぎるのだ。誰かがウイルスを導入すればたちまちアルビオンは崩壊するだろう。
そんなプログラムをシステムの核とするには些か不安があるのだが、上に言っても無駄なんだろう……』
(人間の数が500!? アンドロイド開発だと!? じゃあいきなりおかしくなった奴らはアンドロイドだったとでも言うのか? まだ足りない!もっと情報がある筈だ!)
ベルは更に書類を探す。
『-システムアルビオン管理日記 63日目-
遂に恐れた事が起こった。
アルビオンが暴走したのだ。
数日前にアンドロイド開発が完了矢先だ!
初めから仕組まれていた様に!
ありえない、明らかに何者かがウイルスを仕込んでいる!開発されたアンドロイドは20体程だ、だがそのアンドロイド達がアルビオンに操られてエデンの職員達を皆殺しにっ!
私も襲われて左腕を失った、出血多量でそう長くは持たないだろう。
今もアンドロイド達が殺して回っているのだろう、職員達の悲鳴が聞こえる。
もし生き残り、これを読んでいる者が居るなら逃げるんだ!勝ち目などない!逃げる以外な・・・』
ここで力尽きたのだろうか、文字の代わりにどす黒い血の跡がある。
「なんだよこれ、なんなんだよこれ!」
呆然と立ち尽くすベル。
資料に書かれている事に驚きを隠せない、この通りの出来事が実際に起きたのであれば人間はどうなった?アンドロイドはどこにいる?今ベルが生きている世界とこの資料の内容に大きなズレがあると感じるベル。
(この通りなら63日の前に何か予兆の様な事があるはずだ、アルビオンがおかしくなった何かが)
資料を作成した者が危ぐしていた通りウイルスが仕込まれたのかはわからない。
ベルは他の資料にも目を通そうと床に散らばったものを拾い上げようとしたとき妙な事に気づく、資料がが多過ぎるのだ。
管理日記は63日で終わっている、しかし、書類は明らかに63枚以上存在していた。
慌てて一枚拾う。
見ると日数が1098日となっていた、(明らかにおかしい)、そう思い必至に続きとなる64日目を探す。
635日目.521日目.1063日目.1742日目.9日目.503日目……あった!
64日目の資料を探し当てたベルは食らいつくようにその内容を確認する。
『-システムアルビオン管理日記 64日目-
さて、前任者は残念ながら息絶えてしまった様だ。
せっかくの管理記録だ私が引き継ごう。
私の名はブリッツ、アンドロイド開発を行っていた者だ。
アルビオンにウイルスを入れたのは私だ、今アルビオンは私の管理下にある。全ては偉大なる計画の為、エデンの職員達には犠牲になって貰った。
しかし、まだ不十分だ、これからこの世界をより良くしていかなければなあ!』
ブリッツだと!?裏切り者だったのか!しかしなんでこの名前に聞き覚えがあったのだろうか……。
(他に何か……)
ベルは再び資料を探す。
よく見ると紙束の中に色の違う紙束があるのを見つける、その中の一枚を確認すると、土地面積や地形についてのレポートやその場所での鉱石について書かれているものが整理されている様だった。
(色で分けていたのか)
余り関係ない物だなと思いながらも流し読みしていると、あるページに見覚えのある物の写真を見つける。
『-魔石 ベルナンドについて-
アルビオン開発にあたってアルビオンの発する電気信号を妨害する魔石が発見された。以降この魔石をベルナンドと名付ける。
ベルナンドはアルビオンの信号だけでなく、様々な術式を妨害する。中には現在開発中のアンドロイドの命令信号をも妨害できるとの実験結果を確認した。
今後この魔石を詳しく調査していきたい。』
(魔石?これか?)
その資料にはイデアルから受け取った石と同じものが写っていた。
ベルはイデアルから渡された石を見る。だがその石は余りに小さく、ベルナンドの様な効果を持っているとは思えなかった。
(こんなものか……)
ベルが次の部屋へ向かおうとした時、大きな地震が襲う。
(な、なんだ!?)
地震は施設を揺らし次第に大きなものへと変わっていく。
ベルは下敷きにされない様に走り出す。
イデアルは無事だろうか。
急に心配になる。
もしかしたらこの地震でイデアルも怪我を負ったかもしれない、それとももうすでにガンデスに……。
(駄目だ、今は目の前の事に集中しろ!)
不安を振り払うように先へと進む。
そして見逃してしまった。
もう一つの重要な部屋である『人間観測記録室』を。
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