終章

 そこらじゅうから地響きが鳴り響き、いたる所にひびが入り始める。

 このままでは建物の下敷きになるのは解りきっていた、だがベルは先に進み続けた。

 今進まなければ二度と先へ進めない、真実へとたどり着けないと思ったからだ。


(地下への道は何処だ!)


 ベルは先程読んだ資料で、この建物の地下にアルビオンがあるのを知って、ひたすらに地下への道を探し続けている。

 地震の揺れ、建物崩壊のプレッシャーなど意に介さず走り続けた。

 そうして走り続けた先には大きな広間が広がっていた。

 そこに階段が一つ、きっと地下へと続く道だとその先へと進む。


 階段を下ると、目的通り地下に出る。

 ようやくたどり着いた先は、聞き覚えのない音が鳴り響く開けた空間、そこに見覚えのない大きな物体が一つ。


(あれがアルビオンか……)


 予想以上の大きさに驚きつつも近づくと、自分以外の人影がある事に気づく。

 向こうもベルに気づいたのかこちらに近づいてくる。

 臨戦態勢になり警戒するベルにその人影は、


「やあ、ベル君」


 と、久しぶりに会う友達の様に親しく声をかける。

 一瞬知り合いかと考えるがこんな所にいる訳もなく警戒を解くことはなかった。


「誰だ!?」

「ふむ、やはり覚えていないのかね……これで105821回目だよ! いや? 105822回目だったかな? 資料は何処にいったかな?」


 ベルが現れた事に驚きもせず、ベルの名前を知っている人物はマイペースに資料を探す。

 そのマイペースさに唖然としていたベルだが、ある事に気づく。


「あんた、顔が……」


 ベルの前に立つ男の顔は半壊し、中の金属が丸見えになっていた。


「ん? ああ、これかい? 見ての通りさ、私はアンドロイドなんだよ」


(アンドロイド、あの資料にあった20体いるという奴らの一人か!)


「そのアンドロイドが何故こんな所にいる? それに何故俺の名前を知っている!」


 より警戒を強めるベルは剣を作り出し、アンドロイドをけん制する。


「それは知っているさ、なんせ105822回会っているのだからね」


(なに!? 何を言っている……)


 あえて口には出さず気持ちよさそうに喋り続けるアンドロイドから少しでも多くの情報を得ようとする。


「うーん、この説明をするのも105822回目なんだがね、流石に飽きて来るよ。毎回毎回忘れてるんだから、説明するこちらも身にもなって欲しいね」


 言葉とは裏腹にその表情は嬉しそうにしている。

 ガンデスとは違う不気味さに得体のしれないものを感じる。

 そんなベルを前に、アンドロイドは相変わらずマイペースに続ける。


「システムアルビオンは知っているね? 後ろにあるこの機械の事なんだがね?」


 アンドロイドは後ろにある大きな物体を指す。


「機械……だと?」

「おおっと、そうか、そこからかい? 仕方ないか、科学は消滅したも同然だしなあ……」


 アンドロイドはブツブツと言い続ける。

 自分の世界に入り込んでしまったようだ。

 永遠に続けるアンドロイドにベルは我慢できずに剣を作り出し――。


「訳がわからん事ばかり言っても無駄だ!」


 そのままアンドロイドに斬りかかる。


「おっと! 君の太刀筋も代わり映えしないねぇ」


 アンドロイドは軽々とかわす

 何度も斬りかかるが全てかわされる。


「くそっ!」

「少し大人しくしてくれたまえ」


 動きが完全に読まれているベルはアンドロイドの蹴りをモロにくらい、壁まで吹き飛ばされ叩きつけられる。

 通常の人間ではありえない威力に戸惑いながらも立ち上がるベル。


「これがアンドロイドの力か? それとも機械ってものの力か?」

「んん、両方かな?」


 アンドロイドはゆっくりと近づいてくる。


「本当はじっくり話し合いたいんだよ? でも時間が惜しい」


 アンドロイドは右腕でベルの首を持ち上げる。


「それに、流石に飽きた」


 アンドロイドの左腕が変形する。


「これはデザートマグナムと言ってね、こんな小さな物なのに人間を一撃で殺す事の出来る便利なものなんだ」


 ベルには聞き覚えの無い単語で話すアンドロイド。


「残念だが君の物語は毎回ここで終わるんだよ、それは今回も例外では無いんだ」


 アンドロイドは右腕に力を入れる。


「さようなら」


 大きな音が響き空間に反響する。

 右腕から放たれた弾はベルの頭をかすめ壁にめり込んでいた。


「おや? ずれてしまったかな? おかしいな、こんな事一度もなかカカカカカカ」


 突然アンドロイドの様子がおかしくなる。

 ベルを持ち上げていた左腕も緩み、なんとか逃れるベル。


「何がっ……ごほっ、起こって……」


 呆然とするベルを前にアンドロイドは暴れ続ける。


「貴様! まだ意識があるというのか!」

「生憎だな! ずっとこの時を待っていたよ!」

「馬鹿なああああああ!」


 一人で会話を始めたアンドロイド、まるで二人いる様に一人で話し続ける。

 ベルはただ眺めている事しか出来ない。


「ベル!」


 突然名前を呼ばれ強張るベル。


「これを受け取れ!」

「ヤメロオオオオ」


 アンドロイドは自身の胸部から何か抉り出しベルへと投げる。


「これは……」


 投げられたものはベルナンド。

ベルが持っている物とは比べ物にならないくらいの光を放っていた。


「アアアアアア」

「これがあればお前は記憶を失わずに済む」

「フザケルナアアアア」

「これでブリッツ! お前の野望もお終いだ!」

「イヤダアアアアアア」


 二人の中での争いは後から出てきた謎の人物が勝利したようだ。

 先ほどまで叫んでいたブリッツの声は聞こえなくなり、代わりに落ち着いた口調で話す人格の者が残る。


「ブリッツ!? お前がブリッツか!」

「いや違う、正確には俺はオーだ、先程までのがブリッツだ」


 訳がわからないままオーと名乗った者は続ける。


「すまんが説明している時間が無いんだ、その内またブリッツの意識が蘇る、その前に再びアルビオンを発動させれば」


 オーはアルビオンへと歩きながら向かう。


「お、おい! 待てよ! アルビオンで何をどうするんだ!」

「時間を戻す、もう一度4日からやり直すんだ」

「やり直!? イデアルもそんな事を言ってたな……」

「イデアルを知っているのか!? そうか、奴の仲間か心強い。いいか? アルビオンは時間を戻してなんかいない、魔法で位置情報を管理し、それぞれの設定された時と場所に戻しているだけなんだ」


 オーから聞かされる事は信じられない事ばかりで、大半は理解出来なかった。ただベルは黙って話を聞くしかない、真剣な表情でオーの話を聞き続ける。


「それともう一つ、この世界に人間はもう殆どいない、大半が俺と同じアンドロイドだ」

「何だと!?」


 驚くベルにオーは一枚の紙を渡す。


「私も信じられなかったが……これに全て書かれていた」


『-アンドロイド運用計画-

 発案者:ブリッツ


 近年人間の数が徐々に減り続け、遂には500にも満たなくなってしまった。

それは何故か?答えは単純だ。


 人間には寿命がある。

 人間には食べ物が必要だ。

 人間は病気にかかる。

 人間は欠陥が多すぎるのだ。


 ただ人間は考える力については他を圧倒する事が出来る。

人間の弱点は身体の弱さだ、そこで私は考えた。

機械の身体ならどうだろうか?機械の身体ならもし仮に負傷したとしても新たなパーツに変えれば元どおりだ。


 しかし、管理局長のネシアはこれを却下した!

何が非人道的だ!そんな感情論で問題は解決しない‼︎

こうなれば強行するしかないだろう。

今後のネシアの行動に注意しながら計画を進める事としよう。』


(これは……)


「ブリッツは確かに優秀な科学者だったのだろう、だが、奴の取ろうとした手段は余りにも酷かった。それをネシアという人物は止めたのだろう」

「ネシアは今何処に?」

「わからない、ただアンドロイドの大量虐殺があった時に他の職員と一緒に死んだのかもしれん……」


(システムアルビオンの資料にあったブリッツが意図的に起こしたアンドロイドの暴走か……)


「そしてもう一枚がこれだ」


 再びオーから渡された紙を見る。


『-システムアルビオン管理記録 508日目-

 とうとう人類のアンドロイド移行が99%に到達した。

 説得にかなりの時間を要したがみんな同意してくれた。

 これで貧弱な身体からおさらばだ!やはり私は正しかったのだ!』


「おい、どういう事だ……皆アンドロイドだっていうのか!」

「そうだ、99%がアンドロイドだもう人間は殆どいない。そしてアンドロイドとなった人間達は寿命無く平和に暮らす筈だったが、アルビオンがアンドロイド達をコントロールし始めた。そしてアンドロイドとなった人間は気付かずにアルビオンの支配下に落ちた」


「馬鹿な! だったら俺達もアルビオンにコントロールされている筈だ! だが俺達オメガは操られてなんていない!」


 ベルは自分が人間であると信じるように言う。

 気づかない内にアンドロイドに等なっていないと……。


「そうだ、お前達は操られていない、アンドロイドじゃないからな」

「だったら!」

「ああ、人間なんだよ、お前達は、だからお前達は異端者扱いされていたんだ」


 ベル達オメガが異端者とされていたのは人間だったからだった。

 この世界は99%がアンドロイドである、たとえ人間である事が正常だとしても大多数が人間ではないのであれば、アンドロイド達から見れば人間であるベル達は間違いなく異端者なのである


 ――システムの設定を変更します。

 ――繰り返します、システムの設定を変更します。

 カウント日数を13に変更……。

 カウント日数到達を確認しました、システムをリセットします、担当者は次元超越の衝撃に備えてください。


 突如ベルとオーの話し合いを遮るように謎のアナウンスが流れる。


「どういう事だ! リセット周期は14日間の筈だ!」

「な、何が起きている! 今の声は!?」

「誰かがアルビオンの設定を変更した」

「どういう事だ! アルビオンを管理しているのはブリッツじゃないのか!?」

「その筈なんだがな!」


 言いながらオーはアルビオンに向かう。


 ――システムリセットまで30秒。


「何をするつもりだ」


 不安そうなベルにオーが言う。


「さっき渡したベルナンドをしっかり持っていろ! それがあれば記憶を失わずに済む!」


 ――システムリセットまで10秒。


 アルビオンのアナウンスが残り時間を告げる。


「くそっ! いいかベル、本当の敵はブリッツじゃない! アルビオンの設定を変更した奴が本当の敵だ!」


 ――8、7


「敵!? 敵ってなんだよ!」


 イデアルにも言われた敵とはブリッツの事だと思っていた。

 しかし、敵はブリッツでは無かった。


 全てが振り出しに戻った気がした、そして今まさに世界がアルビオンによって振り出しに戻されようとしていた。


 ――6、5、4。


「もう時間が無い! リセットされたらイデアルに言うんだ!」


 ――3、2。


「言うってな――」


――1、0…………システムリセットを開始シマス…………。


 最後の言葉を交わすことなく、ベルとオーがいた空間は瞬時に光で覆われた、その光は更に大きくなり、やがて世界全体を覆ってしまった。


 ベルの意識は光によって微睡みの中に落ちる。

 薄れゆく意識の中で巨大な魔力を放つアルビオンを見て思いだす。今までに何度も見たこの光景を……。


(またダメだった……)


 ベルは繰り返していた。

 同じように4日から今日にいたるまでマーロウを倒し、ノースクから逃げ延び、パコイサスからも逃亡し、ガンデスからもイデアルを置いて先に進む。


(逃げてばかりだったな……)


 最後に全て思い出したベルだが、全てが遅かった。


 そして世界は、アルビオンによりまた繰り返えす事になる、再び4日から始まる。

 だがしかし、確実に世界は形を変えていた。


 切っ掛けは些細な事だった。

 一番初めにガーネア姫を護衛する任務があった時、実はイデアルも任務に参加していた。

 だが今回は参加しなかった、今までには無く本当に今回初めて任務に参加しなかったのだ。

 『参加する筈の人物が一人少なくなった』たったそれだけの事だけで、後に続くノースクでの事やパコイサスでの事が一日づつズレれしまった。


 結果的に14日でリセットされていた世界が、13日でリセットされる事になった。

 その違いが今後の世界を大きく変える事になる。

 しかし、そこ事に気づく者はおらず、未だ誰も気づくことはなかった。

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