#22 歌舞伎町編

キャバクラの掟。人の客を取ってはいけない。

私は禁忌を犯した。


翌日、山さんはOPENからやってきて私を指名した。

勝った。

私は本当に最低だが、賭けに勝った。

勿論不安がなかった訳ではない。

ミズキさんやボーイに山さんがチクれば終わり。

他の店に移るしかない。


常連客の指名変えというまさかの事態にボーイが来た。

「優さん、ミズキさんのお客取ったの?ダメって分かってるよね?」

「取っていません。昨日来た時しつこくて私は断りました。1番驚いてるのは私です」

「そうか…困ったなぁ。ミズキさん怒ると思うよ」

「じゃあお客にミズキさん指名に変えて貰って下さい。お客にそうお伝え下さい」

「それは無理だよ」

「じゃあ私からミズキさんに謝ります?山さんが指名変えしてしまってすみませんって言ってきますよ」

「無理無理、逆効果でしょうが。やめて。まぁ仕方ない、お客の希望だからね」


私には勝算があった。


ミズキさんは25歳くらい。

恐らく相当プライドが高い。

18歳の小娘に客を取られたから何かするようなタイプではない。

それこそ彼女のプライドはズタボロだろう。

そしてミズキさんは他の嬢とつるまない。大体1人で居る。

お友達が文句を言って来る可能性は低い。

ミズキさんはNo.20〜30くらいなので大事にはならない。


私に山さんの指名変えが伝えられるのと同時にミズキさんにも伝えられたようだった。

そもそも客側から指名を変えると言われたら店側は何も言えない。

山さんは特定のボーイと仲が良い訳ではないので、ボーイ側から何か言う事もないだろう。


私はボーイにエスコートされて山さんの席に行った。

「こんばんは、山さん」

「待ってたよ、優ちゃん」

私達は微笑み合い、手を握った。

握った手に連絡先を添えた。


ミズキさんの視線を感じた。

私は一切気にしない。

こういう勝負は気にしたら負けだ。

勝者は勝者らしく振る舞わなければいけない。


「山さん、ドリンク頂いていいですか?」

「勿論だ、好きなだけ飲みなさい」

更におつまみや食事なども出してもらって、来週〇寿司へ行く事も決まった。

寿司!寿司!寿司コールは鳴り止まない。


読み通りに私は事なきを得た。

ミズキさんへの実質接近禁止になったくらいか。


噂を聞きつけた愛ちゃんが

「優ちゃん、ミズキさんの客取ったんやって〜やる〜」

「そんな訳ないじゃん。客が勝手に指名変えたの」

「ほんまに〜?実は営業したんとちゃう?」

「してないよ。本当に困ってるんだよぉ。私は平和主義者だからね〜」


まぁ平和主義者なのは間違いないけど、無料寿司に勝てる物など女子高生にはないのだ。

戦う時は戦わなければいけない。


翌週〇寿司の前で待ち合わせ。

念願のお寿司!私の目は輝いていた!




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る