#21 歌舞伎町編

入店して3週間目の事。

付け回しのボーイから呼ばれ「ミズキさんご指名のヘルプね」と言われた。

ミズキさんって誰だっけ。あぁ、抜けてきたあの人か。如何せん人数が多いので覚えられない。


「優さん入りまーす」

「こんばんは、優です」

「優ちゃん、よろしくね。初めて付くよね」

「そうですね、私はまだ3週間目くらいなので新人なんですよ」

「新人さんなのか、指名客沢山居るんじゃない?」

「残念ながらいませんよ。誰か良い人紹介して下さい」

山さん。50代で身なりから金持ちである事はすぐ分かった。

「ミズキさんと同伴でしたね。何か召し上がったんですか?」

「行きつけの寿司があってね。週1回ミズキと行くんだ。そこの〇寿司知らない?」

「あぁ、来る時に通りますよ。いいなぁお寿司、私も行ってみたいな」

〇寿司は高い。毎週食えるとか羨ましすぎる。

山さんが声を潜めて

「連れて行ってあげるよ、連絡先教えて」と言ってきた。

どうせ店外デートと思ったので

「行けたら嬉しいですけど、ミズキさんに怒られちゃうのでダメですよ」とさり気なく断ると山さんは話し始めた。

「実はミズキとは長いんだけど飽きちゃってね。ミズキは気が強いから俺は優ちゃんみたいな優しい子が好きなんだ」

「そんな事言ったらミズキさんに怒られますよぉ」

ちらっとミズキさんを見ると確かに気が強そうでプライドの高さが見て取れる。

なるほどね。

「じゃあミズキさんと3人で行きます?」と言うと、「俺は優ちゃんと2人で行きたい。連絡先教えてよ」と言う。

ヘルプに付いている時に連絡先を渡すなんて以ての外。


しかし私は最低な思い付きをしてしまった。


「分かりました。但し、今から言う私とのお約束を守れますか?」

「わ、分かった」

「明日来て私を指名して下さい」

「明日?急だね。明日じゃないとダメかい?」

「明日ご指名頂ければ私は山さんの事を信じます。もし来なければご縁が無かったと思ってお互い全て無かった事にしましょう」

「俺は優ちゃんを裏切ったりしない」

「あとミズキさんとは連絡しないで下さい。これがバレたら私は辞めなくてはいけなくなる。そうしたら二度と山さんとお会いすることは出来ません。それはとても悲しいです」

「そうだな。分かったよ」

「あとミズキさんとは週1回同伴していたんですよね?私とも同じようにして欲しいんです。私に指名が変わったから山さんがいらっしゃらなくなったと思われたら…私はとても辛いです。それにお店に申し訳ないと思ってしまいます…」

「それはそうだ。優ちゃんに会えるのは俺にとっても嬉しい事だから喜んで来るよ。優ちゃん、そんなに心配しなくていい。俺はちゃんとやるから安心して欲しい」

「山さん…私、信じてます。待っていますからね」

付け回しから「優さんお願いします」と呼ばれた。

満面の笑みで席を外れる。

通りすがりにミズキさんから「ありがと」と言われた。

いいえ、逆にありがとう。

貴方には何の恨みも無いけれど、山さんを貰います。

寿司が食いたい…。全ては寿司の為…。寿司




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