#10 池袋編

名探偵なこはすぐに盗られたと察した。

周囲を見回す。今女の子は4人、ボーイは3人いる。

この中の誰かの可能性が高いが思い当たる節がない。

私は少し考えていた。

今優先させるべき事を。


私は思いっきり音を出して更衣室を飛び出た。


大声で全員に聞こえるように叫んだ。

「やばーい!なこ、メイクポーチ忘れたみたーい!誰かお化粧品貸してほしい〜!」


一瞬静まり返った隙に全員の表情を確認する。

さすがキャバ嬢、誰も顔に出さない。

みんなポカーンとしていたが、次々に話し出した。

「なこはおっちょこちょいだなぁ。これ貸してあげるよ。使いな」

「商売道具忘れちゃダメっしょー。はい、これも好きなの使いな」

「ありがとう〜なこ、ここのお店のみんな優しいから大好き〜」


犯人探しなんて面倒な事はしない。

今の優先事項は化粧をする事であって、誰が犯人でも構わない。


私の化粧品は千円以下の物ばかり。100均の物もある。ブランド物なんて持っていない。

盗まれた原因として考えられるのは怨恨。

だとしたら既にポーチごと捨てられているだろう。


化粧品なんて別に今日の日払いで全て揃えればいい。惜しい物などない。


犯人さん、残念でした。

なこはそんなにか弱い女の子じゃないの。

小学生の時とか物がないとかよくあったし全然慣れてんの。


全くめんどくさい。

何か文句があるなら直接言えばいいものを、どうすればこんな陰湿な考えが浮かぶんだか。

しかし更衣室に不用意にメイクポーチを置いた自分の自己責任だ。

私はいつの間にか気が緩んでいた事を思い知らされた。


夜の世界は蹴落とし合いだから、誰の事も信用する無かれ。改めて強く思った。


数日後、階段でサボっていた。

煙草を吸っていると後ろからカンカンというヒールの音が聞こえたので、振り返るとあまり話さない凛ちゃんが話しかけてきた。

「何やってんの?」

「付け回しから逃げてサボってんの」

「へぇー…。なこちゃんさ、ここだけの話、一緒に歌舞伎町行かない?」

「えっ?」

当然疑ってかかる。

あまり話した事もないのに他店への引き抜きなんて何だかおかしい。

でも凛ちゃんは誰とも群れない。他の女の子とは話さない。一応聞いてみる価値はありそうだと思った。

「正直な話、この店潮時だと思わない?なこちゃん若いんだからさ、店移った方がいいと思うな」

私は潮時の意味をすぐ察した。

「それって店長の事?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る