#8 池袋編
「このお店は初めてですか?」
「そうだね、そいつが行こうって言うから来たんだ」
お連れ様を指差した。
「お仕事関係の方ですか?」
「そうだね、俺は会社をやってるからウチの社員だよ」
「そうなんですねぇ」
何と!場内指名してくれた方は社長だという。
これは逃す訳には行かない!
この人から本指名を取ろう。
会社経営者なら取引先や部下などの飲み会で利用して貰える可能性が高い。
私は敢えて入店して日が浅いこと、本指名が取れない事、同伴をした事がない事など悩みを打ち明けた。
「同伴か。明日仕事の後ならいいよ」
「本当ですか?嬉しいです」
「でもさ…付き合ってくれる?」
「はい、お付き合いします」
「分かった。じゃあ俺の会社近いからそこで待ち合わせね」
やった、初同伴が決まった!
そろそろ成績を上げたい。
それにフリーのお客様に付くのはチャンスである一方、正直疲れる。毎回初対面で名刺を渡して営業をかけて、運が良ければ場内指名を貰えるけどそれっきり。電話をしてもメールをしても浮かない返事しか貰えない。
他のキャスト(嬢)のお客様のヘルプは更に気を使う。好きなキャストにお金を払い指名して来ているのに、他の客の所にいる訳で、私とは時間を潰す為に話すわけだから差し支えない内容を話すしかない。
狭い店なので指名被りなど丸見えなのだ。
どちらも仕事。
しかし他のキャスト達を見ていると自分の指名客の時は楽そうにしてるように見えた。この時は。
翌日。待ち合わせより少し早めに到着した。
普段のメンズライクな服を封印して、女の子らしい服装にした。
社長は迎えに来てくれて、一旦会社に戻る用事があるとの事で同行した。
「ここが俺の会社だよ」
オフィスに着くと他の従業員は誰もいなかった。
ごく普通のオフィスだったけど、素敵ですね!とか言ってみたりして。
どうやら荷物を置いて迎えに来たようで、すぐに「じゃあ行こうか」と言われ、エレベーターに乗った。
すると、
彼が私の肩に手を置き、引き寄せた。
「えっ?」
戸惑っていると接吻をしようと!
私は必死で顔を逸らした。
「やめて下さい!いきなり何ですか?」
「はぁ…何だ、やっぱり付き合わないんじゃん…」
「は…?」
付き合うって!?交際するって事!?
お酒に〜とかじゃないの?
そもそも40過ぎたオッサンが18歳(サバ読み)に対して出会った翌日にいきなり手を出そうとするとか何なの。信じられない。
結局空気が悪い中、凄く適当な居酒屋に連れていかれた。こちらもご飯など喉を通らない。
同伴で入店し、ワンタイムでお帰りになりました。
私は先輩のサラさんに話した。
「今日の同伴のお客さん、いきなりキスしようとしてきたんです。こんな事ってあるんですか?」すると、
「それは酷い客ね、私だったら殴ってるかも」と怒りを露わにしていました。
優しいサラさんが殴る程の事だったのか…
サラさんは「そんな客はすぐに切りな。いい事ないよ」とアドバイスしてくれた。
まぁあの感じだと二度と会う事もなさそうだけれど。
初めての同伴で苦い経験をしてしまった。
私は怖くなって暫く同伴する事はなかった。
続
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