#6 池袋編 体験入店⑤
初めての場内指名を貰ったものの、何を話したらいいのかよく分からなかった。
とりあえずどんなお酒が好きなのかだとか、好きな食べ物は何かとか、どんな仕事なのかとか、ほぼ世間話のような事しか話せなかった。
「お客様お帰りでーす」
指名客について行き、エレベーターの前のエントランスまで見送りをする。
「指名してくれてありがとう!また会えたらいいな」
「なこが頑張っていれば会えるかもしれないな」
「分かった。頑張るね!またね」
笑顔で手を振りみんなでお見送り。
エレベーターの扉が閉まった瞬間、嬢全員が真顔になり無言で待機席に戻る。
私は煙草を吸いながら思った。
この仕事、チョロいわ。
こんな簡単に指名取れるなんて思ってなかったし、酔っ払ってるからノリで何とか出来る。
私は初心者特権を行使した。
「キャバ嬢初めてで、何も分からないの。優しい人で良かった〜」
ひたすら繰り返す。
そういうとお客様も優しくしてくれる。
なんだ、チョロいじゃん。
しかも時給は3000円!
煙草も吸っていい。
わーい、ここはパラダイス!
今日は電車で帰るので終電上がり。
スカ男がやってきた。
「どうだった?」
「場内取ったよ!今度ご飯奢って下さいね♡」
「マジか〜考えとく。それよりやっていけそう?」
「やるよ」
「じゃあシフトどうする?」
「週3かな。私は儲けたい訳ではなくて暮らして行ければいいからね」
思い出して欲しい。
なこの本業は女子高生。
通信とはいえ出席が必要な日もある。
何よりも身バレするのが1番怖い。
お金儲けより、ランキングより、何よりも後ろめたさ。
母からも警察にお世話にはならないようにと度々言われていた。
煙草を吸うのももちろん下手したら補導ではあるが、老け顔なせいでコンビニでも売ってくれるし、喫煙所でも浮くことはない。
母からは何度も注意されていたが煙草は未だに辞められていない。
母はキャバクラで働いているとはまさか思っていないので、万が一バレたら怒られるし辞めさせられる。
しかし家の敷金礼金など用意して貰ったこともあり、これ以上金銭的に負担は掛けたくなかったし、私も暮らしていくお金が必要だ。
今までのファミレスのバイトは時給900円。
私は出られる日はランチからディナーまで働いていた。
でもここなら週3日でももっと稼げる。
リスクはあるけど私はここで働いてみようと真剣に思った。
続
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