第141話 作戦会議をしよう
僕たちはゲートから少し離れた広場に移動した。
ちなみに案内はメルフィがしてくれた。
多分、比較的安全な場所なんだろう。
昼食を終えると、休憩することにした。
メルフィは楽しそうに料理を見たり、僕たちを観察したり飛び回っていたりして、僕たちは彼女の遊戯を温かく見守った。
その後、ドミニクの提案で、騎士たちは街に帰ることになった。
理由は魔物の存在報告を怠ったことがバレたら、処罰を受けるからだ。
正直、彼らが黙っていてくれるのかはわからないけど、バレたらバレた時の話だ。
あくまで調査の邪魔になって欲しくないということと、僕たちで魔物を探して討伐した方がいいんじゃないかという考えのもとの行動だし。
しかしドミニクは残ることになった。
曰く『自分の判断で決めたことだし、指南をしていただきたいから』とのことだった。
一応、ドミニクの立場を考えると心配になったけど、彼が頑なに残るというので、僕たちは折れることになった。
剣術の指南自体は別にいつでもできると姉さんは言っていたけど。
真面目なのか不真面目なのかよくわからない人だな、ドミニクは。
ただ、なんというか上層部を恐れていない感じはする。
案外、肝が据わっているのだろうか。
とにかく一度、ドミニクもアジョラムに帰ることになった。
騎士たちは護衛隊長であるドミニクの判断で帰されることになった、という報告をする必要があったからだ。
ということで僕と姉さん、ウィノナと伯爵がアルスフィアに残ることになった。
もう完全にドミニクは護衛のことを忘れているというか、僕たちに任せれば大丈夫だろうと思っているんだろうな。
別にいいけどさ……。
「お腹も膨れたし、今後どうするかを考えた方がいいかな。
調査を進めるにあたって具体的にどうするべきかは話し合ってないしね」
「そうですな。どのように進めるかを決めておくのは重要でしょうな。
役割分担もありますからな」
「伯爵の言う通り、役割分担が必要だね。
調査をどう進めるのか、目標は何なのか、どうしてそれをするのか。
そして適材適所を考えて、工程をどういう風に進めるのか。
それを最初に決めておかないと、後々に困るからね」
「ま、そうね。あたしはそういうの得意じゃないから、シオンに任せるわ。
あたしがしないといけないことは何となくわかってるし」
どうやら僕に丸投げするつもりみたいだ。
確かに姉さんの言う通り、こういうのは僕が担った方がいいだろうし、姉さんは自分の役割をもう把握しているみたいだ。
今までの流れを考えると想定はできるだろうけど、さすがは我が姉って感じだね。
「妖精の調査と魔物の捜索と討伐をできれば同時進行したい。
ということで、魔物討伐は姉さんとドミニクに任せたいと思ってるんだけど」
僕が言うと姉さんは深いため息を漏らす。
「はぁ……そうなると思ったわ。シオンは妖精の調査をしたいでしょうし。
あの馬鹿と一緒にいないといけないのね」
「嫌なら僕が代わるけど」
「いいわよ。わかってる。適材適所だものね。やるわよ。
あいつだけじゃ、死んじゃうだろうし。それに魔力も見えないみたいだし。
でもあたしじゃ魔力の残滓なんて見えないわよ?」
「それは大丈夫。
足跡とかの痕跡を見つけるのは大変かもだけど、魔力の残滓を見つけるのは追跡しやすいだけだから。
ある程度の探索は通常の魔力が視認できれば問題ないと思う。
魔物の行動と移動範囲とか、魔物の種類、あとは魔物の痕跡が多い場所がわかった後に、僕も行くから」
「基本的な魔物の探索と魔物への対処があたしの役割ってことね。了解」
「ありがと。じゃあ、魔物の調査に関して。
基本的に僕と伯爵で妖精の言葉、つまり【妖精語の分析】をすることになる。
妖精の生態を知るなら村に入るのが一番だけど、信頼関係を築けていない今、彼女たちに近づくのはあまりよくない。
最低限の妖精語を習得して、何かしらの彼女たちにとっての利がある行動をしないとね」
「それが魔物の討伐ってことでしょ?」
即座に姉さんは補足してくれた。
やっぱり僕の考えをくみ取ってくれていたみたいだ。
「そういうこと。妖精たちと仲良くなるにはコミュニケーションを図る手段を得ることと、できるだけ時間を共有すること。
後は彼女たちが困っていることを解決してあげることが大事だね。
そうすればメルフィみたいに警戒が解けるだろうし」
打算的だという自覚はあるけど、他に手段はない。
というかウィンウィンだし、これくらいは許容してもらいたいところだ。
三人は異論ないようで頷いていた。
「僕と伯爵で調査を行う。基本的には妖精の村近くの調査しながらメルフィとの会話をして、徐々に妖精語の解読と、妖精の生態を調べる。
僕と伯爵は調査に集中したいから、生活に必要なことはウィノナに任せることになるね。
ただ食料を現地調達で済ますわけにもいかないし、頻繁にアジョラムに帰ることにはなるけど」
「は、はい! お任せください! 家事全般、お世話なんでもいたします!」
ウィノナはやる気十分とばかりに真剣な表情を見せる。
アジョラムについてから、いつも以上にやる気があるようだ。
ちょっと気になるけど……まあ、大丈夫そうだしいいかな。
正直に言えば、妖精の村の家に住めればいいなとは思うけど、さすがに無理だろう。
ゲート近くで野宿するという案もあるけど。
ん? なんか忘れてるな。
あ、そうか!
僕は伯爵に向き直る。
「アルスフィアにも夜の魔物は出ますよね?」
夜の魔物は朝昼の魔物よりも凶暴で強力だ。
姉さんが怠惰病に罹った日、僕と父さんで急ぎイストリアに行った時もそうだった。
あの時はブラッディウルフと新たな魔物レイスが現れた。
国や地方ごとに夜の魔物の種類は違うらしいが、一般的な魔物はゴブリン、コボルト、オークの三種類であることは揺るぎない。
それも最近の魔物の異常発生、活発性の変化、新種の出現などがあるためどうなるかは疑問だが。
「もちろん出ますぞ。昨今では新たな魔物も発見されておりますからな。
危険度も上昇しておりますし、メディフ内でも警戒を促しておるほどでして」
「となると野宿はあまり推奨できませんね」
僕と姉さんが交代で見張りをすれば大丈夫だろう。
しかし、だろうというだけで、完全に安全なわけではない。
普通の魔物であれば対処はできるけど、レイスのような特殊な魔物の場合、強ければ勝てるというわけでもない。
魔物学には精通していないが、それでも危険な魔物が現れる可能性は僕が一番わかっている。
しかし妖精たちの村は魔物の手が届かない場所にあるのだろうか。
彼女たちは特に防衛策をとっているようには見えなかった。
やはりあのゲートを通れる魔物はいないのだろう。
少なくとも今のところは。
そう考えると、村に住んだ方が調査をより進めやすくなることは間違いなかった。
「夜前には帰った方がよろしいでしょうな。
いくらシオン先生やマリー嬢が強いと言えど、昨今の魔物は得体が知れません。
儂の魔物学の知識は少々古くなりつつありますし」
専門家が言うならば従った方がいいだろう。
僕は姉さんと頷きあう。
姉さんは強さに自信があるし、自負もあるが、無謀ではないし、きちんと危険性を認識している。
もちろん僕もだ。
というか父さんとグラストさんにそういう風に叩き込まれたんだけどさ。
「では夕方前まで調査と探索をして、帰るという流れでいきましょう。
今日は付近の探索をしながら、メルフィと話して少し調査を進めることにします」
「了解しましたぞ」
「それでいいわ」
「か、かしこまりました」
三人の承諾を得て、僕は立ち上がった。
飛び回っていたメルフィが僕の肩に舞い降りると座った。
もう僕の肩の上が定位置なんだな。
僕はなんだか嬉しくて口角を上げると、メルフィも応えるように笑顔を向けてきた。
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