第102話 きらめきローキック

 話し合いは滞りなく進んだ。

 内容は簡単だ。

 エシュト皇国を共通の敵とし、それ以外の他国相手の場合は状況により協力関係を築く。

 強制ではないが、互いに敵対行動はしない。

 また、良好な関係が続けば、国交を行う。

 その際も交渉次第で内容を決定するというわけだ。

 同盟というよりは限定的な協定のような感じだろうか。


「それでは」

「ああ」


 互いの署名を以って、簡易的な調印式は終了した。

 正直に言えば肩透かしな部分は多い。

 ケセル王国の出席者はたった二人。

 国王と勇者の二人だけというのは、些か頼りなくも感じる。

 もちろん、国王さえいれば国政を担うことはできるだろうが、国家間の調印式にしてはやはり華美さに欠ける。

 彼女が国王であることは間違いないだろうが、理由が気にはなった。

 しかし踏み入ってもいいものか。

 今日が初対面、その上、俺達はただ一時的な友好関係を築いただけの間柄だ。

 やめておこう。

 せっかく築いた関係を好奇心で壊したくはない。

 互いの署名した文書を確認し、それぞれ写しを保管する。

 これにて、調印は正式に行われたことになる。


「これからよろしく頼む」

「こちらこそよろしくお願いいたしますわ」


 握手を求められ、それに応えた。

 細く、力を込めると折れてしまいそうだ。

 力強さはないのに、強い意思は感じる。

 適度な力で握り、ゆっくりと離すと、ナディアは満足そうに頷いた。

 さて、これで終わりなのでお帰り頂こう、とはさすがに言えない。

 元々、食事の準備はしているが、はっきり言って自信がない。

 自国には専門の調理師がいないので料理の味も決して美味とは言えないからだ。

 食料の数が頭痛の種の状況だ。

 味の良し悪しに気を回す余裕がなかったからだが。

 ……もっと気を遣うべきだったかもしれない。

 同盟の渉外内容に関しては考えを巡らせていたのに、それ以外に気を割かなかった。

 何とも、間が抜けているが今更どうしようもない。

 王が食事に前向きならば、正直に話すしかないだろう。

 心証は悪くなるだろうし、自国への評価は下がるだろうが仕方がない。

 食事に関しては、駆け引きができる手札がないのだから。

 さりげなくもてなしの話をするかと考えていた俺だったが、先にナディアが口を開いた。


「ところで、こちらの街を拝見したいのですが」

「それは構わないが……」


 言いにくいが、都市内の見目は悪い。

 家屋は解体したばかりで畑にすべく耕しているので、周辺は汚れている。

 城郭前には解体した資材が乱雑に並んでいるし、人数が少ない分街中の清掃まで気が回っていない。

 決して清潔とは言えないのが現状だ。

 亜人が街中を歩いている光景も、この世界の人間にはあまり好ましくはないだろう。

 もちろん、俺自身が亜人達の存在を疎ましく思っているわけではない。

 ただ他人にとって好印象になるとは思えないだけだ。

 ――ひた隠しにしてもしょうがない、か。

 俺は意を決して、鷹揚に首肯した。


「ばたばたしてるし、ケセルに比べればかなり見苦しいと思うが、それでもよければ」

「ええ、もちろん。構いませんわ」


 ナディアの表情を見て、俺は小さな疑問を抱く。

 笑顔を浮かべていたからだ。

 彼女が笑うことは今までにもあったが、どこか空々しかった。

 王然としているという感じで、感情的な印象が弱かったからだ。

 だが、今の笑顔は少女らしさを残した反応だったように思えたのだ。

 何か、思惑があるのだろうが。

 ……考え過ぎか。もう東西同盟は決定事項なのだ。

 幾らなんでも今更覆したりはしないだろう。


「わかった、じゃあ案内しよう。その後、食事としようか。あまり自信はないが」

「理解しています。今の状況では料理の質までは手が回らないでしょうから」


 何とも理知的な反応だった。

 やはり王としての資質は負けているようだ。

 経験か血か。

 とにかく現状では彼女に見劣りしていることを俺は自覚していた。

 先の話し合いに関して、俺が一本とれたのは単なる幸運だったように思う。

 それはさておき。

 俺はハミル、ディッツ、莉依ちゃんに視線を流した。

 ……さて誰を連れて行くべきか。

 本来なら、王自身が自国の案内をしたりはしない。

 だが自国は弱小国で国の体裁を保っているかは微妙だ。

 自分でケセルの王、ナディアを出迎えたのと同じ理由で、俺自身が案内してもおかしくない。

 それに、ナディアの行動に裏があるわけではないだろうが、直感的に俺が案内する必要があるように思えた。

 正直、仕事をサボりたいし!

 国の統治者同士、ためになる話もできるかもしれないしな。

 ハミルは俺がいない間の指示を任せたいので除外が妥当だろう。

 縋るような目をしてもダメだ、ダメだ!

 ディッツは、地位的にいなければならないだろう。

 名ばかり警備などという印象を与えるわけにはいかないし、何よりディッツのプライドを傷つける。

 莉依ちゃんは医療局長だ。この会合に最も縁遠い立ち位置ではあるが。

 めっちゃ睨んできてるんだよな……。

 連れて行かないと後で怒られそうだ。

 莉依ちゃんが拗ねた姿は可愛いけど、それとこれとは別問題だ。

 ナディアとの駆け引きで、彼女を利用した感じなので、あまり共に行動させたくはないんだが。


「……ディッツと、莉依ちゃん、俺と一緒に来てくれるか?」

「ああ、行くに決まってるだろ」

「は、はい、行きます!」


 あーあ、二人共そんなにわかりやすく嬉しそうにしないでくれ。

 胸中で色々、打算とか考えての結論だったので、ちょっと罪悪感が……。

 そんな俺の内心など知る由のない二人は、真剣な表情だった。


「では、行こうか」

「ええ。行きますわよ、リキ」

「あー、わーってるって」


 面倒くさそうにしながらもナディアの命令に従う沼田。

 自己中心的な行動ばかりだと思っていたが、登場の時、ナディアをエスコートしていたことといい、もしかして、ナディアに対して何かあるんだろうか。

 俺がじっと沼田を見ていると、目があった。


「……んだよ」

「いや、なんでも」


 ばつが悪そうにしながら、沼田は視線を逸らした。

 まあ、他人の事情に首を突っ込む気はない。

 俺は五人を連れて、部屋を出ようとした。


「王……!」


 ちょっと泣きそうになっていたハミルの肩に、俺は優しく手を乗せる。


「後は、頼んだぞ!」


 満面の笑みを向けると、ハミルは懇願するような顔をして、即座に項垂れた。

 そして小さく、はい、と呟く。

 さらばハミル、頑張ってね!

 俺は、何か言われる前にそそくさと部屋を出た。


   ●□●□


「本当に、亜人を解放したんですのね」


 驚きを隠そうともせず、ナディアは街中で見かける亜人をまじまじと見つめていた。

 亜人は世界中で奴隷として扱われている。

 中には平民として働いている亜人もいるが、かなり極少数だし下働きの域を出ない。

 それ故に、世界中で亜人は奴隷という印象が強い。

 そんな常識を覆したのだから、驚いて当然だろう。

 しかし俺は大きな違和感を覚える。

 ――どうして、驚くだけなんだ?

 ナディアは亜人が外を歩いている姿を見て、驚きはしても忌避はしていない。

 蔑むような色も瞳に浮かんでもいない。

 むしろ感嘆しているように見えたほどだ。

 どうやら俺は訝しげな顔をしていたようで、ナディアは俺を見ると苦笑した。


「すみません、少し子供っぽかったですか?」


 勘違いされたらしい。

 自戒の意味もあるのか、言葉にはやや気恥ずかしさも含まれていたようだった。

 俺は首を横に振る。


「いや、そうじゃない。君は亜人に対して悪印象はないのか?」

「ありませんわ。確かに亜人は奴隷、という考えが常識ではあります。

 ですが、わたくしにとっては人間も亜人も、平民も貴族も奴隷も国民ですの。

 上下はありません。皆がいるから国は成り立つのであって、代わりはいませんもの。

 ですから、悪印象なんてとんでもないですわ。むしろ、好印象ですの」


 この年齢でこれだけの視野の広さ。

 いや、若いからこそ考えが柔軟なのかもしれない。

 それに聡明だし、よくよく考えている。

 俺は胸中で賞賛を送りつつも、純粋な興味を抱いた。


「君は、聖神を崇めているんだよな?」

「半々、ですわね」

「半々?」

「ええ。聖神様の存在が歴史を作り、今の私達を作った。すべての基盤であり基礎です。

 だからその過去をなくすことはできませんし、感謝の念もあります。

 ですが同時に疑問もあります。多くの戦争による数万、数十万の死者。

 それらは聖神様の神託によって起こされたものも少なくない。

 それは正しかったのか、と」

「つまりケセルは聖神に傾倒しているわけではない、と?」

「わたくしは、ですが。聖神教の影響は根強いです。脱却は簡単ではありません。

 しかし、わたくしはいずれそうすべきである、と考えてはいます」


 同盟に前向きだったのは、合理主義であるから、という理由はやや弱いと思っていた。

 それは沼田が言っていた言葉だったが、実際ナディアに会ってもその考えは覆りはしなかった。

 だから疑問だったし、やや怪訝だった。

 しかしその理由は氷解した。

 彼女も俺と同じように、聖神による支配から逃れるべきという考えを抱いていた。

 簡単なことではない。

 生まれながら植え付けられた宗教は生き方そのもの。

 思考の根っこの部分を変えることは困難だ。

 しかしそれはこの世界にとっては必要なのだろう。

 だからまだうら若い彼女が先陣を切ろうとしている。

 そして運よく俺と利害が一致したというわけか。


「じゃあ、君はこの世界を統一する気はないのか?」

「……さて、それはどうでしょうね」


 彼女は俺に振り向き、少女とは思えないほど大人の微笑を浮かべた。

 含みを持たせた言動と凄艶さに、俺は一瞬だけ気圧される。

 底が読めない。

 実際、沼田を迎え入れているという事実がある。

 ということは、聖神が定めた勇者という存在を受けいれているということだ。

 神託通り、戦争を起こし、世を統一する可能性はある、か。

 だが、聖神の支配からの脱却を考えているという話は嘘ではないと思う。

 それならばケセルにはメリットがない。

 ただの見せかけ?

 それとも、俺が知らない何かがまだあるのだろうか。

 俺が知っているのは邪神であるリーシュが知っていることが主だ。

 各聖神とのつながりが強い各国の王族だけが知っている情報がもしもあるとすれば、俺には知ることはできない。

 それは恐らくリーシュにも。

 彼女が一体何を考えているのか、それは俺にはわからなかった。


 思案しても答えはない。

 ナディアに再び問いかけることも、もう難しいだろう。

 俺は思考を変えた。

 後方から無言でついてくるディッツ、沼田、莉依ちゃんだったが、立ち振る舞いは三者三様だった。

 ディッツは険しい表情のまま沼田とナディアを監視している。

 彼からすれば、ディッツには禍根が多少はあるだろう。

 ドラゴンの討伐遠征隊に参加した際、狙われた過去がある。俺もだけど。

 莉依ちゃんはと言えば、困ったような顔をして俺を見ていた。

 彼女の立場は微妙だ。

 特段、発言ができる役職でもないが、行動を共にしたいとは思っていただろう。

 しかし客であるナディアを放置するわけにもいかないので、結局、莉依ちゃんと話す機会はなかった。

 剣呑、ではないが何とも奇妙な組み合わせだった。


「面白いですわ、この国は」


 しばらく案内を続けた後、ナディアが感慨深げにつぶやく。

 その言葉には、どこか褒めるような感情が込められている。


「面白い、か」


 俺は俺で少し複雑だ。

 言葉だけを受ければ馬鹿にされているとも受け取れる。

 そんな俺の反応に気づいたのか、ナディアは慌てて手を振った。


「失礼。嫌味のように聞こえたら謝罪しますわ。

 そうじゃありませんの、素直に賞賛しているんですわ」

「それならよかった。でも、そんなに面白いか?」

「ええ。あなたは知っているのかわかりませんが、この世界、どこの国の民もどこか疲れ、どこか不幸せです。

 それに疑心暗鬼になっている。利己的で、心が貧しい」


 不意に、エインツェル村でのことを思い出していた。

 俺達を皇国に差し出そうとした村長達の顔。

 彼等ももしかしたら、聖神の被害者なのかもしれない。


「聖神様を崇めながら、同時に恐怖を抱いている、そんな感じでしょうか。

 どのような神託が下るのか、誰にもわかりませんからね。

 何かに追われ、常に縛られ、戦争に怯えていました。

 そして結局戦争は起こり、再び、民草は怯える毎日を送っているのですわ。

 それはケセルも同じことですの。わたくしはそんな国を変えたいと思っていた。

 ……この国はそういうしがらみがないのですわ。

 決して裕福じゃない、環境も悪いですし、街中も荒れていますわ。

 亜人と人間との軋轢もあるのでしょう。でも、どこか生き生きとしていますわ」

「生き生きと、か」


 日々に追われ、毎日、疲れ果てるまで働いている。

 国民全員が、だ。

 それでもナディアは彼等を見て、生き生きとしているという。

 そうなんだろうか。大変な思いをさせているという考えはあったが。


「きっとあなたのおかげなのでしょう。

 あなたの存在、あなたの力、あなたの考えが彼等を少しずつ変えているのかもしれません」

「俺が……?」

「不思議なものですが、国民は王を写す鏡のようなものだとわたくしは思いますわ。

 あなたはどうやら国民に好かれている様子です。

 それに、わたくしが知っている限り、あなたほど身を犠牲にし、国民と共の生きている王を知りませんわ」


 そうなのか、とは素直に思えなかった。

 思案していると、遠くにいた子供達が俺の姿を見つけ、走り寄ってきた。


「ほら、こちらに来ますわよ」


 あれは、いつも俺に声をかけてくる子供達だ。 

 なんだかイヤな予感がする。

 ぎこちない笑顔で子供達に手を振ろうとした俺。


「あああああ! 王様だあああああ!」

「きゃあああ、王様! 待ってぇ!」

「王様! 和王様! クサカベ様ああ!」


 あんなに嬉しそうにするなんて。

 俺はなんて馬鹿なんだ。

 こんな純粋な子達を疑うなんて。

 そう思った時。


「うるるるるるぁあああああいいぃ!」


 子供達の見事なローキックが俺のふくらはぎや脛、太腿に入った。

 それは見事に腰の入った蹴りであった。

 俺の身体が僅かにぐらついたほどに。

 ちなみに俺のレベルはカンストしているんだけどね、どういうことなのかね?


「い、痛いな、おい!」


 痛くはないんだ、身体は。

 心に来るんだ、心に。


「えへへ、王様の脛、超硬いよおぉ」

「ハイ! ハイ! 俺の殺人ローキックが効かない、だと!?」

「ねえねえ王様、ハイキックしていい? ハイキックしていい!?」


 俺をおもちゃのように蹴る子供達。

 なんと無邪気な顔をしているのか。

 俺は思わず泣きそうになった。

 これが好かれていると言うことなのだろうか。

 なんだろう、嬉しくないんだ。

 ナディアはぽかんと口を開け、俺達を見ていた。

 それは他の面々も一緒で、状況が飲み込めていない様子だった。

 はたと我に返ったのはディッツだった。


「お、おい、こるるああっ! クソガキども! 王になにしてんだ!」

「きゃああ! その時、強面の男が吠えた。にっげろぉ!」

「うっさいうっさいばーか! 噛ませ犬みたいな顔してるくせに、死ね!」

「ちぃ、あと五年は必要か……!」


 子供達は捨て台詞を残して逃げていった。

 なんという身のこなし、判断の速さだ。

 子供とは思えない。

 彼等は莉依ちゃんより年下である。

 だがこのアクの強さはなんだ。

 散々蹴られ、俺の身体は埃だらけだった。

 王である。

 俺はこの国の統治者である。

 なのに国民である子供にいいようにされて、こんな姿になっている。

 俺はゆっくりと、笑顔のままナディアに振り返った。


「これって好かれているのか?」


 そう言うと、ナディアは子供達に負けず劣らず、無邪気に大笑いした。

 その後、しばらく笑っていたが、ようやく収まった。

 しかし余韻があるのか、ナディアはお腹を押さえつつ話す。


「ま、まさか国民に……くふっ、ローキックされる王がいるとは、お、思いも、し、しませんでしたわ、ぷっ」


 なぜだろう。

 とても切ない。

 心に風が吹いている。

 俺は達観と共に、空を見上げる。


「ですが、やはり好かれてはいるのでしょう。でなければあれほど親しみを持てません。

 やり方は、ちょっと異質ですが」


 ちょっとなのだろうか。

 いくらなんでも王様にローキックを放つなんて、もう、なんだろ。だめじゃない?

 こんなことで怒りはしないけどさ。


「仮に、もしもあなたが王として仕事をしていなければ大人達はあなたを蔑みます。

 親達の態度は子供に伝わりますから、子供達があなたになついているのであれば、同時に大人達もあなたを敬愛していると考えられます。

 心情的な部分だけではなく、事実としてこれはありえることだと思いますわ」

「……もしそうだとしても、王になってまだ三週間程度だしな。

 これからは違うかもしれない」

「違わないかもしれない。わたくしの印象では、あなたは変わらないように思えます。

 これからも国民と共に国を栄えさせていく、そう思えますわ」


 尚も否定しようとした俺だったが、ナディアにまっすぐ見つめられ言葉を失した。

 宝石のように輝く双眸に魅入られたわけではない。

 単純に、言葉なく、俺の考えを否定されたと感じたからだ。

 見つめ合ったわけではないが、視線を絡んだままだった。

 莉依ちゃんは俺達を交互に見て、慌てながら手を上げる。


「わ、私もそう思います!

 ローキックは別として、ですね!

 と、虎次さんはみんなに好かれていますし、虎次さんだからみんな頑張っているんです!

 疲れるし大変だけど、幸せです、楽しいんです!

 生き生きしているのは、きっと未来に思いを馳せているから。

 みんな虎次さんの考えに賛同して期待して、希望を持っているんです。

 だから、えと」


 莉依ちゃんは唸りながらも尚も、言葉を紡ごうとしていた。

 その真摯さを嬉しく思うと同時に、こそばゆい感情も浮かぶ。


「きっと彼女でなくとも同じような考えなのでしょうね」


 ナディアが見たのはディッツだった。

 相手は他国の王、それに一度失礼な言動をしてしまった。

 そんなディッツは困惑した様子だったが、迷いながらも答える。


「俺や妹は、その、こいつ……じゃなくて、和王のおかげで生きてい……ます。

 なので、俺は命を懸けて和王のために働くつもりです。

 そう考えている人間は少なくない。それ以外の連中も、きっとこの国に未来を見ている。

 と、思います」


 ナディアはクスッと笑った。

 悪戯っぽい顔だったが、そこには親近感を滲ませてもいる。


「なるほど、よくよくわかりましたわ」


 何だか雲行きが怪しい。

 こういう褒められるような雰囲気は苦手だ。

 どういう顔をすればいいのかわからないし、何を言えばいいのかもわからない。

 俺は渋面を浮かべて、ただ無言で歩いた。


「先程までの態度とは真逆ですわね。こういうのは苦手ですの?」

「……まあ、そうだな」


 可愛らしく笑ったナディアだったが、俺は反応に困ることしかできなかった。

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