第14話 スキルとはなんぞや

 休憩時間を利用して、莉依ちゃんと結城さんの二人は鍛練を繰り返していた。

 二人とも村娘のような格好だ。

 普段、俺はほとんど休まないが今日は二人に頼まれて付き合っている。


「むむむ!」

「はああああ!」

「へい! へい!」

「よ、むむ、来い! 来い来い!」


 別にふざけているわけじゃない。

 スキルをどうすれば使えるか試しているのだ。

 俺の場合はUIがあってスキルを選択する、つまり文字を見て、意識的に『この対象に使う』と思えばいいだけだ。

 当然、使用方法やスキルの概要は伝えている。

 だが、一向に発動しない。


 スキル名を叫ぶのは最初に試した。

 それ以降は、どうにか画面を出せないか試した。

 が、ダメ。

 結果、直接スキルを使うしかないという結論に至った。

 が、ダメ。

 気合いを入れても。

 脳内で思い浮かべても。

 色んな挙動をしてみても。

 ダメ、全然ダメ。

 発動する気配がまったくなかった。


「ほあちゃ!」

「にゃああ、んにゃ!」

「しゅ! しゅ!」


 叫んだり、妙な挙動をしたり。

 完全に奇行だ。

 もはや恥も外聞もない。

 俺が見ているのに、彼女達は気にもしていない。

 多分、その領域は超えちゃったんだろうな……。

 村の人達もめっちゃ見てるし。


「はぁはぁ、はぁ、だ、ダメですね!」

「そ、そうだね。いつも通りダメだね」


 肩で息をしている二人を見て、俺は何ともいえない心境に陥った。

 頑張っているのは伝わってくる。

 けれど、結果が出ていない。

 方向性が違うのか?

 いや、違うに決まってるだろ、何言ってんの俺。

 今までもどうすればいいのか、と話し合いはした。

 俺もできるだけ意見を出してはみたが状況は芳しくはなかった。


「ど、どうすればいいんでしょう」

「ほ、本当にあたしたちに能力があるのかな?」

「ステータスで見えるからあると思うぞ」


 結城さんがガクッと肩を落とす。


「もう一度、考え直した方がいいかもですね。

 闇雲にやってもできそうにないですし」

「そう、だな」


 莉依ちゃんの意見には俺も賛成だ。

 しかし、どうやって?

 再び、二人のスキルだけを見てみた。



・名前:遠枝莉依


●アクティブスキル

 ・リフレクション

   …望んだモノと干渉しないようにする。完全防御であり、完全拒絶。

    対象によってMP消費量が変わる。


●パッシブスキル 

 ・オートリフレクション

   …自動的に、自身の害になる要素を排除する。解除可能。常時MP消費。



・名前:結城八重


●アクティブスキル

 ・アクセル・ワン

   …身体能力を一段階上昇させる。


●パッシブスキル 

 ・オートリジェネーション

   …HPとSTが自動回復する。ただし効果は微小。



 うん、やっぱり表示される。

 となると、間違いなく能力は持っているのだ。

 俺はふと気になり、聞いてみた。


「二人とも、パッシブスキルの方は発動してるのか?」


 俺の言葉を受け、二人は一斉に頷いた。


「怪我しそうになると発動したりしますね」

「あたしは、疲れてもすぐに元気になるかな。度合いにもよるけど。

 怪我してもすぐに治るし。多分間違いないよ」

「ということは、発動方法が間違っているだけか」


 文言を見る。

 そして二人が今までどういう方法で発動しようとしたか思い浮かべる。

 照らし合わせる。

 もしかして。

 ――閃いた。

 俺は近場にあった、手のひらサイズの石を持ち上げた。


「莉依ちゃん。これじっと見て」

「え、は、はい」


 じーっ、という効果音が聞こえそうなほどに凝視している。

 素直な子だからな。

 十秒くらいが過ぎた頃、


「リフレクションって言って」

「リ、リフレクション」


 その瞬間、莉依ちゃんの身体が翡翠色に光った。

 その明光はぼんやりとしており、まるでオーラのようだった。

 同時に、俺が持っていた石も同様の色を発光した。


「わ、わわ! ひ、光りました!」

「うん、とりあえずそのまま、色々してみて『どうやったら解除されるか』模索しよう」

「は、はい!」

「んで、結城さん」

「うん! なになに!?」

「はああああ、って言いながら身体中に力入れて」

「……え? それって漫画みたいに?」

「うん、そう。はあああああああああああああああああ! って」


 俺は恥ずかしげもなく、気合いのままに叫んだ。

 それが結城さんに勇気を与えたらしい。駄洒落じゃない。

 両手の拳をグッと握り、気勢を発した。


「は、はあああああああ!」

「もっと!」

「はあああああああああ!」

「もっともっと!」

「はあああああああああああああああああああ!」

「今だ! アクセル・ワン!」

「アクセル・ワン!」


 叫び声と同時に、結城さんの身体が赤く光った。

 傍目から見ればそれくらいしか変化はない。


「どう?」

「お、おおっ! なんか、身体がめちゃくちゃ軽いよ!」


 軽妙に跳躍した結城さんは、数メートル上空に移動していた。

 そのまま着地したと思ったら、縦横無尽に動き回る。


「すっごい! これ、すっごいよおぉっ!」


 興奮したように叫んでいる結城さんだったが、スカートなので下着が丸見えだ。

 本人は気づいていない様子だったので、俺は無言でちらちらと眺めた。


「ほっ、ほっ!」


 なんて無防備な。

 色々試しているのだろう、回転したり飛んだり跳ねたりしている。

 けしからん。なんとけしからん。

 …………黄緑、か。

 悪くない。

 しばらくして、スキルの効果が切れた。

 二人とも興奮したように俺の元へやってきた。


「ど、どうしてわかったんですか?」

「っていうか、発動条件がよくわかんないんだけど!」


 二人共にぐいっと顔を近づけられてしまう。

 莉依ちゃんは背が足りないから、下から見上げる形だ。


「ま、まあ落ち着いて。えーと、色々見てたら気づいたんだ。

 俺はスキルを使う時『UIがあるから明確に使用する』って感覚がわかる。

 けど二人は曖昧な感じなんじゃないかって思ったんだ。

 莉依ちゃんは、対象を明確に設定できてなかった。

 だから、一点に集中すれば使えるようになるかもってな」

「な、なるほど。そういえば、私は結構、大雑把に対象を選んでたかもです」


 うんうん、と俺は頷く。

 素直に感心されると嬉しいな。

 何より、この二人は表情が豊かだし、反応がいい。


「あ、あたしは!?」

「結城さんは、イメージが上手く伝わってない感じだった。

 だから、『全身に力を入れること』で、よりスキルのイメージができると思った。

 アクセル・ワンは身体能力の向上だから、力を入れるという行動の延長なわけだしな。

 二人とも『スキル名を言葉にする』ように言ったのは、更にイメージが可能になると思ったから。

 多分だけど、慣れれば言わなくても発動するんじゃないか?」

「ほほぉ……え? じゃあ、はああああ、とかいらなかったの?」

「い、いや、ほら、以前スキル名叫んだから、抵抗あると思ったし。

 恥ずかしくないようにするには勢いって必要だからさ?」


 結城さんは微妙な顔をしたが、やがて、うん、仕方ないよね、うん、と呟き出した。

 実は結構トラウマだったんだな……。


「一度使えたのなら、後は慣れだと思う。頑張ってな」


 旅には何があるかわからない。

 魔物が存在する世界では戦う術は不可欠だ。

 俺のスキルは、俺だけなら便利だ。

 しかし戦う手段としては役に立たない。

 情けないが、何かあった時、二人にどうにかしてもらうしかないのだ。

 ……邪神は別として。


「がんばりますっ!」

「よっし、やる気出てきた!」


 快活に笑う二人を見て、俺は思う。

 せめて彼女達には、生きていける強さを身に着けて欲しい。

 俺がいても大したことはできないが、その手助けくらいはしたい。

 そう考えていると、莉依ちゃんが俺の近くに寄って来た。


「あ、あのところで……大丈夫ですか? なんだか村の人達から、その……」

「ん? ああ、まあ、大丈夫だよ」


 どうせあと一ヶ月の辛抱だし。

 それに、特に酷い嫌がらせをされているわけでもない。

 カルムは腹が立つけど。


「そうですか……な、なにかあったら言ってくださいね!

 相談でも、愚痴でも……あ、えと、私じゃ頼りにならないですよね」

「いやいや、そんなことないよ。ありがとう」

「いえ! そ、それじゃ、戻りますね」


 莉依ちゃんははにかみながら戻っていった。

 九歳とは思えないくらい、気遣いの出来る子だ。

 彼女の一言一言が心に染みる。


 いい子だよな。


 そう思い、俺は僅かに笑みを浮かべた。


 ……俺はロリコンじゃないよ?

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