第12話 君を殺したい
指針を決めた。
一つ、まず村の復興を手伝うこと。期間は二ヶ月程度になる予定だ。
二つ、最低限の資金と旅に必要な道具をそろえること。
これは復興を手伝うことで村長が用意してくれるらしい。
三つ、それぞれの能力を扱えるようになること。
俺はできるので、二人に対してだ。
四つ、レベルを上げること。これは俺だ。
旅をするにしてもあまりに脆弱過ぎるので鍛えなければならない。
五つ、他の連中を探すこと。
やはり同じ状況の人間で協力する方がいいという結論に至った。
ただ、二ヶ月後に彼らがリーンガム街に滞在しているかどうかはわからないから、即座に見つかるとは限らないけど。
六つ、最終目的といってもいい。
帰る手段を見つけること。
俺はあまり気にならないが、二人は帰りたいだろう。
とりあえずの目標はこれだけだ。
随時、小目標は増えるだろう。
一先ず、目的が明確になればやる気も出る。
俺達は半壊した村を復興させるべく手伝いを続けた。
服も着替えた。この世界の衣服だ。
麻の簡素な服で地味で着心地はよくない。
ずっと制服を着ているわけもいかないのでしょうがない。
贅沢を言える立場じゃないしな。
さて、話を戻そう。
俺は瓦礫の撤去が仕事。かなり重労働だ。
というかなぜか俺一人だ。
村人連中の一部は、まだ家屋として体裁を保っているものの修繕を優先している。
結城さんはそっちを手伝っている。
莉依ちゃんは瓦礫の中から使えそうなものを探したり、調理などの家事を手伝っている。
ステータス通り、結城さんも莉依ちゃんも俺に比べて腕力や体力はあるんだ。
莉依ちゃんは手伝うと言ってくれたが丁重に断った。
年下の女の子に負けてしまうと、心が折れそうだからだ。
別にいいんだ。
気味悪がられているのは知っているし。
そりゃ、トロールに殺されまくってまだ生きてる人間なんて近づきたくないだろう。
まあ、感謝して欲しくもないし。
ただ扱いがぞんざいなのが、ちょっとなぁ……。
奇異の目で見て来るし。
とにかく、気を取り直した。
力仕事をする方がレベルも上がるだろう。
人がいなければ限界まで働いて、死んで体力回復して戻ると言うこともできる。
レベルアップでも体力は回復するけど、そこら辺は臨機応変に、だな。
死ぬ前提で働くとは……。
社畜も真っ青だな。
「さて、やるか」
俺は近場にあった廃材を手にし、抱えた。
腰がグキッとなった。
足に廃材が落ちた。
そのまま転倒した。
痛い。
死んだ。
●□●□
一週間経った。
相変わらず、瓦礫撤去は続いている。
なんせ、十数件ある廃屋の撤去を一人でやっているのだ。
ほとんどの村人はこっちには来ない。
俺がいるのは入口側の家屋跡地。
他の連中がいるのは村奥の現存家屋付近。
そりゃこっちには来ないだろう。
そろそろ休憩しようと思っていた時、
「トラちゃん。昼食持って来たよ」
くしゃっと笑う女性がいた。
「お、ありがとおばちゃん」
汗を拭いながら通りに降りた。
にっこりと笑った、リンネおばちゃんが、お盆を手に持ち、迎えてくれた。
上にはパンと干し肉、ふかしイモが乗っていた。
この世界の食事は、地球と変わらないようだ。
味も一緒だ。ただ、やはり日本のように裕福な食事は得られない。
贅沢は言ってられないよな。
俺はリンネおばちゃんから食事を受け取り、その場に座ると食事を始めた。
「いつも、んん、悪いね、おばちゃん」
「いいんだよ、わたしゃ大したことできないからねぇ」
おばちゃんは村長以外で唯一、俺達に優しくしてくれる人だ。
よそ者でも分け隔てなく接してくれている。
どこの世界にも親切な人はいるものだ。
まあ、リンネおばちゃんに会うまでは、かなり荒んでたけどな!
「息子さんは、まだ?」
「ああ、あの馬鹿息子。森には行くなと言われていたのにねぇ。
怖かったんだろう。魔物が現れた時、さっさと逃げちまったよ」
沈痛な面持ちだった。
おばちゃんの息子は、リガッツという名前らしい。
それは、俺が村に行く途中で出会った男だった。
彼は、村人の中で危険だと言われている森に入って行った。
トロールから逃れるためなら、その方がいいと思ったんだろう。
だが、まだ村に戻ってはいない。
「ウチの息子もトラちゃんくらい勇敢な男だったらよかったんだけどねぇ」
「ごほ、ごほっ! お、俺はそんな大した人間じゃないよ」
咳き込みながら否定した。
急いで咀嚼していたおかげで、喉に詰まった。
俺は、一気に水をあおる。
「村のみんなも、心の中じゃわかってるんだよ。トラちゃんのおかげだって。
でも、いろいろ怖かったんだろうね。だから、許してやってねぇ」
「大丈夫だよ。別に気にしちゃいない」
まあ、さすがに俺に対する仕打ちが酷いとは思うけどな。
リンネおばちゃんはにっこり笑うと、俺から食器を受け取った。
「ごちそうさま。ありがとう、おいしかったよ」
「なあに、大したことじゃないよ。
トラちゃんは十分頑張ってくれたんだから、作業は手を抜いちゃいなさい。
おばちゃん、上手く言っとくからね」
ウインクしてリンネおばちゃんは村の奥に戻って行った。
なんというか、愛嬌がある女性だ。
美人の面影もあるし、昔はモテたんだろうな、と思える。
俺はおばちゃんの助言通り、少し休憩することにした。
牧歌的だ。
転移してからは激動の日々だっただけに、穏やかな時間が愛しい。
「……他の人達は無事なんだろうか」
顔さえ知らないが、一応同郷のよしみがある。
だからこそ協力できることもあるだろう。
何事もなければいいが……。
俺は物思いに耽りながらしばらく休むと、再び作業を始めた。
●□●□
「はぁはぁ、そ、そろそろ死にそうだな」
我ながら凄い言葉だ。
だが、事実なのだからしょうがない。
むしろ死んでリスポーンした方が、元気になるので効率的だ。
レベルがマイナスじゃなくなったからか、転んだ程度じゃ死なない。
死んでも腹は減ったままだけど。
撤去の流れは簡単だ。
まず廃材を大通りに運びます。
大通りにある荷車に乗せます。
木材、石材など燃やせるものと、埋めるもので分けます。
指定位置である程度溜まったら燃やすか埋めるか再利用します。
その繰り返しです。
一人でやってます。
死ぬわ!
いや、死んでもいいけど。
心が死ぬわ!
俺はさすがにちょっと苛立って来ていた。
莉依ちゃんと結城さんはいいんだ。
いつも気にしてくれるからな。
おい、村人!
いくらなんでもこの仕打ちはどうなんだ!?
村長に口添えして貰うのは憚られたから黙々と作業してるけど。
毎回、まとめ役の若い男がぶっきらぼうに言うのだ。
「無理です。一人で頑張ってください」
言い残して、さっさと去りやがる。
むしろ今さっき去っていった。
働くのは良いが、働かされるのはイヤだ。
しかし、サボる気にもなれず、あくせく働いていた。
「ねね、何してるのぉ?」
荷車の横に、ちょこんと座った子供がいた。
女の子か男の子が微妙なラインだ。短髪でパンツルックだし。
莉依ちゃんよりは年下だろう。
そばかすが印象的な子供だった。
「な、何って瓦礫の撤去だよ」
「ほぇー……大変だね」
村のためにやってるんだけど!?
報酬もあるし、完全な善意じゃないから偉そうには言えないけど。
「ま、まあな。危ないから離れてた方がいい」
「んー、手伝う?」
さすがに子供に頼るのはどうだろう。
だけど、多分、俺よりはこいつの方がレベルが高いのだ。
ステータスを見るとへこみそうだ。
しかし、なんとなく気になった。
蛇以下の俺だ。
子供にも勝てないのはわかっている。
だが気になった手前、もう止められなかった。
俺は廃材を降ろし、荷車の上に乗せるとアナライズをしてみた。
・名前:リーシュ・ラルベル・ハイアス
・LV:*666,666
・HP:*66,666,666/66,666,666
・MP:*66,666,666/66,666,666
・ST:*66,666,666/66,666,666
・STR:*6,666,666
・VIT:*6,666,666
・DEX:*6,666,666
・AGI:*6,666,666
・MND:*6,666,666
・INT:*6,666,666
・LUC:*6,666,666
●特性
不明。
「………………は?」
目を疑った。
バグかと思った。
自分のステータスは正常。
近くにいた犬を分析しても正常。
また、子供をアナライズしてみた。
結果は同じだった。
何度しても同じだった。
リーシュという子供はにこにことしている。
それが空恐ろしい。
見た目は子供だが、中身は違う。
どこかで聞いた文言だが、俺の目の前にいるそれは次元が違う。
数値を見れば、トロールさえ足元に及ばない。
何者なんだ、こいつは。
なぜこんなところにいる。
人間、なのか?
背中に伝う汗の感触が気持ち悪い。
一気に全身が脈打った。
「どうかした?」
「い、いやなんでも……正直、手伝って貰うのは悪いな、と思ってな」
できるだけ平静を装う。
動揺が顔に出ていないか心配だった。
こいつは人型の爆弾だ。
いつ爆発するか、素人の俺にはわからない。
できるだけ衝撃を与えないことしかできない。
「うーん、別にいいのに」
リーシュは立ち上がると、残念と言いながら、村の奥へ行こうとした。
待て。
待て、落ち着け。
奥には莉依ちゃんがいる。
結城さんもいる。
村の住人がいるのだ。
どうするつもりだ、こいつ。
こんなステータスを持つ人間が、村人であるはずがない。
もしいたら、トロールを一撃で殺していたはずだ。
つまり、こいつはトロール討伐以降にここに来たのだ。
そして外部の人間が訪問するという情報は俺の耳には入っていない。
よそ者だからという理由もあるかもしれない。
しかし、こんな人間は早々いない。
よほどのことがない限り、こんな辺鄙な場所へは来ないはずだ。
そもそも、人間、なのか?
リーシュは俺の胸中など知らず、すたすたと奥へ歩く。
まさか、みんなを殺すつもりでは……?
どうする。
相手の目的が読めない。
止めた方がいいか。
俺なら死んでも生き返ることができる。
奴が俺を標的にするならそれでいい。
死ねば村長の家で目覚める。
ここからよりは早く危険を知らせることができる。
そうするしかない。
俺は決意を固め、リーシュを呼び止めようとした。
が、
次の瞬間、
リーシュは俺の目の前にいた。
十メートルは離れていた。
なのに一瞬で俺の眼前に移動したのだ。
転移したように見えたがそれは違う。
深く沈んだ足跡があったからだ。
一歩でここまで飛んだのだ。
遅れて音が聞こえた。
同時に、総毛立った。
心臓が一瞬だけ止まった。
「ね、君、気づいているよね? オレのこと」
三白眼をぐいっと目の前に押し付けられる。
俺は戦々恐々としつつも、対応しない。
「何がだ?」
「……ふふ、大したものだね。オレの姿を見るだけで死ぬ人間もいるんだ。
君は恐怖に対して抵抗している。死に慣れた人間だからこそ、かな?」
こいつは俺のことを知っている。
トロールとの戦いを見ていたのか?
それとも以前から俺を見ていたのか?
わからない。
だが危険だ。
トロールなんて目じゃない。
心臓を鷲掴みされているような感覚。
その言葉が最も適していた。
奴に事情がある程度バレているのなら、とぼけるのは悪手だ。
心証を害するだけだからだ。
しかし、情報を精査する必要がある。
こいつはどこまで知っている?
「何が目的だ?」
「肝が据わっている上に頭の回転もまあまあ早い。
うん、いいね。もっと興味が湧いて来たよ」
「ということは……目的は俺か?」
「そういうこと」
リーシュが相好を崩す。
見た目だけはあどけない。
しかし無邪気な殺意を感じた。
「要求は?」
リーシュは更に無垢な笑みを浮かべ、
「君を殺したい」
そう零した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます