第8話 一人じゃない

 村人達の埋葬、トロールの運搬、家屋の修繕などを経て夜になった。

 生き残った村人は、残った家屋を使うことにしたようだ。

 建造物の一割しか無事ではなかったのに、村人が使うに十分な数だった。

 それはつまり、それだけの損害があったということでもあった。


 俺と莉依ちゃん、結城さんは村長の家に泊まらせてもらうことになった。

 そこらの民家と造りはさほど変わらない。

 長なのに、裕福な暮らしをしているというわけではなさそうだった。

 薄板の壁、暖炉、隙間風。

 灯りはランプと暖炉の焚火のみ。

 風情があるというか、なんというか。


「ご自由に寛いでくだされ」


 ぺこりと頭を下げる村長。

 俺達も釣られてお辞儀した。

 ソファーのようなものはない。硬そうな椅子だけだ。

 暖炉前に座るくらいしかなさそうだ。

 一応、椅子にセーブできるか見てみたら、できた。

 椅子やベッド、つまり寛ぐ家具にセーブ可能らしい。

 あるいはそういう場所かもしれないが。

 莉依ちゃんは俺の隣に座った。

 倣うように、その隣に結城さんも座った。

 なんというか俺と目を合わさないようにしているように見えた。

 どう接すればいいのかわからないんだろう。

 俺も同じだからわかる。


「あ、あの色々聞きたいことがあるんですが」

「ああ、俺もだよ」

「でも、その前にありがとうございました。

 それとごめんなさい。日下部さんを放っておいて、こんなところにいて……」

「わ、悪いのはあたしだよ。莉依ちゃんを無理やり連れて来たんだ!

 あなたを目の前にして見捨てたのもあたし!

 だ、だから責めるならあたしを責めて!」


 結城さんは俺に訴えかけた。

 表情が切迫している。ずっと気にしていたのかもしれない。

 そして、俺は小さく笑う。


「仕方がなかっただろうし、莉依ちゃんは俺のことを心配してくれてた。

 感謝こそすれ責めるつもりはない。それは結城さんにも同じことだ。

 むしろ、ちょっと疑った。ごめん」


 本心だった。

 贖罪でもあった。

 俺は一時でも、莉依ちゃんを疑ってしまった。

 見捨てたと、内心で二人を責めたのだ。

 俺の言葉を聞いて、二人はまったく同時に首を横に振った。


「と、とんでもないです!」

「そ、そうだよ。悪いのはあたしなんだし」

「悪くないさ。二人とも、しょうがなかったんだ。

 それに今、謝ってくれた。それで十分すぎる」


 俺は二人に向かって深く頷いた。

 正直、一週間死ぬ思い、というか死にまくったんだが。

 それでも誰かを恨むような気持ちはない。

 莉依ちゃんは涙ぐみ、ぐっと唇を引き絞った。泣かないように耐えているようだ。

 対して結城さんは号泣だった。


「ううううぅっ、ごべんなさぁいっ!」


 どうやらいい人らしい。

 事情はまだわからないが、莉依ちゃんと一緒に居てくれたのだ。

 だったら、情が厚い人だということだ。

 ただ、尋常じゃないくらい泣いている。

 泣きすぎて、嗚咽どころか、おぇ、おぇっ! とか言い出してる。

 俺はこの微妙な空気をどうにかするべく、口を開いた。


「と、とにかく、もう気にせず休もう。疲れたし」

「は、はいっ!」


 莉依ちゃんは笑顔を咲かせ、


「わがっだぁ」


 結城さんは顔をくしゃくしゃにして頷いた。

 一応は心のもやもやは払拭できたらしい。

 莉依ちゃんは結城さんの頭を撫でて、日下部さんは優しいので、大丈夫ですよ、と声をかけている。

 なんというか、立場が逆なのでは。

 声をかけるのも憚られた俺は天井を見上げた。

 そういえば、と思いだした。

 俺は、多少なりとも村の復興作業を手伝った。

 正直、体力も腕力のないので大して手伝えなかったが、死ななかった。

 色々あり過ぎて、忘れていたが、もしかしてトロールとの戦いでレベルが上がった?

 そう思い、画面を開いた。



 New・称号:蛇にも劣る史上最低辺の人間


・LV:1

・HP:1,622/1,622

・MP:0/0

・ST:1,520/1,520


・STR:5

・VIT:3

・DEX:3

・AGI:5

・MND:8

・INT:4

・LUC:7


・経験値:error


●パッシブスキル 

 New・グラビティレジスト

   …重力、圧力に強くなる。



 キタキタキタキターーー!

 ついに来た!

 マイナスじゃなくなった!

 よほど、トロールは強敵だったようだ。

 まあ、レベル一万超えだし、相当に強い奴だったんだろう。

 三百回殺されたし、蛇の比ではない経験値が得られたはずだ。

 MPがゼロのままなのが気になるが、些細なことだ。

 経験値は表示がエラーになっている。

 頭打ちしたのではなく、内部では加算されていると信じたい。

 もしここでカンストしてたら、もう俺は一生このままだということだ。

 やめよう、恐ろしい未来しか浮かばない。

 とにかく! これで、すぐに死ぬ軟弱体質は卒業だ!

 ……でも、莉依ちゃんに抱きつかれた時、死んだような。

 俺はふと、莉依ちゃんのステータスを見た。



・名前:遠枝莉依


・LV:897

・HP:13,089/18,849

・MP:15,241/39,984

・ST:9,554/13,205


・STR:1,001

・VIT:890

・DEX:1,250

・AGI:1,399

・MND:1,988

・INT:2,945

・LUC:3,001


●アクティブスキル

 New・リフレクション

   …望んだモノと干渉しないようにする。完全防御であり、完全拒絶。

    対象によってMP消費量が変わる。


●パッシブスキル 

 New・オートリフレクション

   …自動的に、自身の害になる要素を排除する。解除可能。常時MP消費。


●バッドステータス

 New・不老の女神 

   …老化しない。ただし不死ではない。



 ………………続いて、俺は無言で結城さんのステータスも見てみた。



・名前:結城八重


・LV:1,001

・HP:53,947/67,112

・MP:2,945/6,011

・ST:20,197/64,398


・STR:3,325

・VIT:1,998

・DEX:2,551

・AGI:3,021

・MND:1,088

・INT:654

・LUC:966


●アクティブスキル

 New・アクセル・ワン

   …身体能力を一段階上昇させる。


●パッシブスキル 

 New・オートリジェネーション

   …HPとSTが自動回復する。ただし効果は微小。


●バッドステータス

 New・望まぬ未来

   …時折、自分が嫌いな、苦手な出来事に巻き込まれる。回避は不可能。



 なるほどなるほど。

 二人ともすごいなぁ。

 数値は人間の男の十倍か。

 スキルも、なんか凄そうだし。

 はは、俺なんて、蛇以下だよ?

 さっきやっとレベル1になったの。

 すごいよねー。

 自尊心がズタズタだよねー。

 やっぱり俺が不遇なだけじゃないか!

 はっ!? いかんいかん、このままだと俺は自分で自分の心を殺してしまう。


 俺は横目で二人を見た。

 まだ、結城さんは落ち着いていないらしい。

 現状を話し合うのは後にした方が良さそうだ。

 俺は天井を再び見上げた。

 識火が照らす光が彩っている。

 暖色が俺の心を穏やかにした。

 久しぶりに落ち着いた。

 そして隣を見て、強い安心感を抱いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る