第5話 第一村人発見

 生き返った途端に一気にレベルが上がった。

 


・LV:-922,955,901

・HP:30/30

・MP:0/0

・ST:13/13


・STR:-990,350,522

・VIT:-992,985,211

・DEX:-990,124,989

・AGI:-995,110,745

・MND:-994,456,112

・INT:-987,457,320

・LUC:-988,001,698


・経験値:4,402,298



 おいぃ!? 

 死んだのに経験値すげぇっ!

 だけどHPとか全然増えねぇ! 

 プラスの部分はかなり上昇しにくいのか。

 レベルとかマイナスだもんな……。

 しかもステータスとかレベルがついにエラーじゃなくなった。マイナス九億だけど!


 これは『殺された』からなのか?

 実際には足噛まれただけだけど。

 経験値、か。文字通りどんなことを経験したかが重要なんだな。

 それはともかく、レベルアップの音がうるさい。


「ん? そういえば……」


 よくよく見ると、ステータス画面には設定アイコンがあった。

 中を見ると、どうやら音量やエフェクトの有り無しなど色々選べるらしい。

 俺はエフェクトや音量の一切合財を消した。

 本当にゲーム的だな、と呟きながら思考を巡らせる。


 とりあえず試しに、もう一回だけ蛇に殺されてみよう。

 俺は即決すると蛇を探して、噛まれて、死んだ。


 生き返った。


「どうだ!?」


 上昇値はさっきの十分の一だったが、かなり効率的だ。

 最初だけボーナスがつくみたいだ。

 殺されるには数秒しかかからない。ここで継続すればレベル上げも容易。

 莉依ちゃん達を追いかけるにも、レベルは必要だ。

 一人である程度上げてから行くとしよう。


 しかし蛇に殺されるだけでレベルが上がるならこれほどいい方法はないな!

 ん? なんか色々おかしいような気がする。

 まあ、いいか!

 よし、殺されまくるぞ!


 そして俺は一日中、蛇に噛まれ続けた。

 途中、蛇は逃げようとしたが、それでも追いかけて噛まれ続けた。

 俺はマゾじゃない。

 けど、最後辺りは嬉々としてやっていたように思う。

 反省はしている。

 後悔はしていない。

 

 そして夜になった。

 最終的に、経験値が徐々に少なくなっていった。

 同じ行動は経験のレア度が低いらしい。

 結果はこうだ!



・LV:-820,004,025

・HP:112/112

・MP:0/0

・ST:60/60


・STR:-861,111,512

・VIT:-869,122,654

・DEX:-872,585,878

・AGI:-874,987,064

・MND:-888,890,662

・INT:-854,598,988

・LUC:-862,445,653


・経験値:550,512,970


●アクティブスキル

 ・アナライズ

   …対象のステータスが見える。

 ・リスポーンセーブ

   …リスポーン地点を新たに記憶させる。


●パッシブスキル 

 ・リスポーン 

   …戦闘不能に陥った際に、記憶地点に新たに出現する。

 New・ポイズンレジスト

   …毒に耐性を持つ。


●バッドステータス

 ・最悪の災厄

   …禍(わざわい)に愛された者。何をしても不幸になる。

 ・死神の抱擁

   …死に愛された者。何をしても死に向かう。

 ・因果の解放 

   …あらゆる効果を限界以上に増幅させる。



 数字が並び過ぎて頭が痛い。

 今後は、大きな変化がない限りは見ないようにしよう……。

 これだけやっても、HPは蛇の二十分の一程度か。

 うーん、もっと強い敵に殺されれば、レベルもかなり上がるのかな?


 スキルが追加されている。

 ヘビに噛まれまくってたから、耐性がついたらしい。

 なるほど、死なないから、こういう免疫をつけることもできるのか。

 便利、なんだよな?


「まあ、いいか」


 今日は疲れた。

 数値的には減っていないけど、精神的に疲弊はしている。

 まだ蛇以下だけど、ステータスも上がってきた。

 この調子なら、多少歩くくらいは問題ないだろう。


 ふと思った。

 蛇があれなら、人間ってどれくらいなんだろうか。

 気になるが、今日は寝ることにした。


   ●□●□


 翌日。

 俺は、飛行機の残骸から出発した。

 しかし、道中は予想以上に困難だった。

 獰猛な動物は蛇以外にもいた。

 襲われたら俺は死ぬのだ。

 昆虫にも人間を襲う種類は多い。


 しかもここは異世界である。

 それが確信できたのは、多種多様な生物と遭遇したからだ。

 少なくとも俺が知る限りはではあり得ない様相をしていたのだ。

 角があったり、目の数が多かったり、体躯のサイズがおかしかったり。

 蜥蜴と蛇を足したような生物、複眼の兎、小枝程のサイズで鳴き声を上げる昆虫。

 視界に入ってあまりの気持ち悪さに死んだこともあった。


 手のひらサイズの虫に噛まれて死ぬ。

 疲労で座ったところにあった枝が臀部に刺さって死ぬ。

 茂みを通ろうとしただけで死ぬ。

 草で皮膚を切って死ぬ。

 小石に躓いても死ぬ。

 大型の動物ならば、吠えられただけで死ぬこともあった。

 ジャングルは危険が一杯なのだ。


 なにこの死にゲー……。

 レトロゲームじゃないんだから、ちょっとしたことで死ぬとか勘弁してくれよ。

 レベルは百万くらい上がったが嬉しくない。

 どうせ、何をしても死ぬんだからな。

 一日中、四苦八苦して死にながらも諦めずに進んだ。

 足跡を追っていく。

 そして死ぬ。

 その繰り返し。


 それから結局二日かかってしまった。

 道中、寝るのは怖かったが仕方がない。

 ライターとかあればよかったんだけど、機内は持ち込み禁止だ。

 だから暗闇の中、夜を過ごした。

 死ななかったのは運が良かったとしか言えない。

 そして、死なない方法を覚えながら、草木を分け入ると変化が訪れた。


 道だ。

 獣道ではない。

 人の手が入った、舗装された道だ。

 俺が知っている道路はコンクリートが敷き詰められているものだ。

 しかし、目の前にあるのは道といっても人があまり通らない山道程度だ。

 障害物がほとんどなく、死ぬ可能性が著しく下がるのは嬉しい。

 俺は、慌てて走り出さないように気を落ち着かせながら道に入った。

 二人分の幅。


 しかし、誰かがいたという事実が嬉しかった。

 つまりここは人が訪れることができる場所ということだ。

 新しい足跡は、なかった。

 遮蔽物がない分、風が土を吹き動かしたのかもしれない。

 足跡らしきものはあるが、どれも歪んでいる。

 坂道になっており、普通に考えれば下る方向を選ぶはずだ。

 俺は直感を頼りに、下る道を選んだ。

 何もしない場合は死ぬことはなくなっているが、油断すると一瞬で死ぬ。


「はぁはぁ、しんどい」


 呼吸が荒い。

 見るとHPが半分まで減っていた。

 STは枯渇寸前だ。

 少し休もう。

 休憩すればHPやSTは回復する。

 ほとんど即死するから、まだ、あまり活用出来ないけど。


 木陰周辺をよく観察し、危険がないとわかったので座り込んだ。

 どれくらい歩いたんだろうか。

 莉依ちゃんと別れて一週間が経っている。

 無事だといいんだけど。


「あー、なんでこんなことになってんのかなぁ」


 ふと気を抜くと、どうしても疑問が浮かぶ。

 特に、これから自分がどうなるか、という点が気になってしょうがない。

 誰でもいいから、俺達がここにいる理由を教えて欲しい。


「神様ー! お釈迦様、仏様! 聞こえますかー!?」


 叫んだつもりだったが、まだ喉が機能しない。

 普通に話す程度の声量は出ると思うが、長時間は無理だ。

 俺の声が反響する。

 反応は当然ない。

 変な生物が近寄って来られても困る。


 俺は水で喉を潤した。

 次に固形の携帯栄養食品を口にすると、丁寧に噛んで飲み込んだ。

 何をするにしても慎重に。

 喉に詰まらせたら、水を飲む前に死ぬと思う。

 緩慢に立ち上がると、再び坂道を下った。


   ●□●□


 運がよかった。

 道に出てからは動物に遭遇しなかった。

 食料が底をつく前に、遠くで村が見えた。

 といっても、俺の視力はまだ万全じゃない。

 百メートルほどまで近づいてようやく気づいたのだ。

 死ぬ要素はまったくなかった。

 ここまでは。


「ひいいいぃ、た、助けてっ!」


 そう聞こえた時、小さな人影に気づいた。

 それが数秒で俺の元までやってくる。

 髭面で初老の男性だった。

 普段、身体を動かしているのか、それともそういう仕事をしているのか。

 引き締まった肉体をしているのが、露出している部分を見てわかった。

 だが、そんな逞しさも、情けなく顔を歪ませているため台無しだ。


 風貌はやや時代がかっている。

 中世の西洋風、という感じだろうか。

 一言で形容するならば『村人』だ。


 男は俺に近づくと、腕を掴もうとした。

 俺は、慌てて、後退り離れる。

 触られるだけで死ぬかもしれないだろ!


「ち、近づかないでくださいっ」

「ひゃ、う、あ、あいつ、来た」


 必死に訴えたつもりだったが、男はわなわなと震えるだけだ。

 おかしい。

 尋常ではない。

 眼の焦点が合っていない。


「ど、どうしたんですか?」

「村に、き、来た。よそ者が連れて来たんだっ!」


 身も世もないとばかりに、男はその場から一目散に駆けて行った。

 置き去りにされてしまった。

 追いかけるか?

 いや、俺の走力じゃ無理だ。

 しかしふと気になり、村人をアナライズしてみた。



・名前:リガッツ


・LV:118

・HP:12,005/13,580

・MP:0/0

・ST:11,220/11,220


・STR:818

・VIT:592

・DEX:667

・AGI:312

・MND:195

・INT:101

・LUC:228



 これが大人の男性のステータスか。

 彼は平均以上なんだろうか。

 身体を見るに多少は鍛えているようだった。

 それでも百レベル代ということは。

 レベルやステータス含め『プラスは上がりにくい』ということらしい。


 マイナス状態ならばすぐに上がるけど、0を境に上がりにくくなるのだろうか。

 蛇のHPとSTは千単位。

 人間は万単位。ステータスは百単位、か。

 少しずつ基準がわかってきたな。

 しかしこの数値を考慮すると、俺のステータスは本当に異常だ。

 なんだか泣けてきた。

 俺ははっとして邪念を振り払う。

 精神ダメージは避けないといけない。

 そう思った俺は別のことに思考を割いた。


 そう言えば、彼が言っていた。

 村に、来た?

 あいつ、とは誰なんだ?

 しかし、よそ者が連れて来たと言っていた。

 ということは村に莉依ちゃん達が立ち寄ったということか?

 それとも別の人を指している?


「……行くしかないか」


 正直、不安でしょうがない。

 何かあったとして。

 俺が行ってもまた死ぬだけだと思う。

 とにかく、状況を把握したかった。

 それに死に対する恐怖が薄れていたことも手伝った。

 俺はさして逡巡せず、村へ向かった。

 徒歩で。

 その上、ご老人のようにゆっくり歩んだ。

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