第14話

 委員は放課後の空いた教室に集められる。各クラスの人と部活の部長が机を合わせて、対話する姿勢をとった。黒板には生徒会の面々が並び、チョークを持って記録している。

 生徒会長が遅れて到着し、先生が立つ場所へ頭を出す。ポケットから敗れたルーズリーフを机に広げて、前を向いた。


「昼休みに集めて悪い。とにかく、早く連絡するね」


 生徒会長の口調が砕けている。


 正午12時に委員は空き教室に集められた。担当の先生は伝えることがあるようだ。文化祭まで時間が無いから急いでいる様子だった。俺と鳥越は早々に飯を終わらせる。


「手短に話します。みなさんから事前に受け取った意見をこちらで協議した結果、大体の要望が通ったと思います」


 俺達のクラスは店を出すことにした。教室もクイズ大会になった。これは関わらないグループから主張され、くじの中に入れたもの。教室は俺の担当になり、店は鳥越が取り持つことになる。出店は唐揚げやポテトを作る予定だが、具体的に中身を詰めていない。


「それで、教室の出し物は大体の要望が通りそうです。代わりに、問題点は個別に話し合います。そして、今回は出店の場所を決定します」


 生徒会は公平性を重視した。黒板に靴箱から入口までの道を記す。その脇を四角く枠を取り、数字を振り分けていた。俺たちはその中から数字を取り上げていく。

 低学年から中を引いていく。門から近いところや、人通りの少ない場所にクラス名が書き加えられる。二年が呼ばれて、鳥越が立つ。彼女は最初に手を突っ込んで、紙を上にかざした。


「良。いいところ当てたよ」


 俺達の店は門番に近いところだ。人目に付くから悪くなかった。

 あとの会議は連絡が行われる。食品の人は許可をとる必要があって、明日の昼休みに来る必要があった。


「私が行くよ。良は道具の準備して」

「わかった」


 分担した方が早い。俺は配られた髪を裏返す。白紙のページに『やるべきこと』と書いた。

 俺は教室の成り行きを見守らないといけない。店の飾り付けや出店で使用する機械や机を借りる。


「めんどくさい……」

「ちゃんとやらないとダメだよ」

「分かってる」


 昼の会議はお開きになった。扉の近いものから外に出ていく。いらない荷物を背負って教室に帰った。



 放課後になり俺は連絡した。黒板の隣は鳥越がファイルを持って立っている。

 会議の報告を教室に伝達させた。彼らはクラスの大半は耳を貸さず時計を気にしている。


「それで、誰かホットプレートとか貸してほしいんだけど」


 助け舟を出したのは楓だった。


「あ、それなら私が持ってるよ。昔に兄貴が使ってたヤツだけど」


 ホットプレートを今は使用していないようだ。また、容器が重いから人手が欲しいと提案した。取りに来るのは今日でも構わないと言う。

 文化祭まで時間がない。道具はあらかじめ抑えておきたかった。


「それなら、私もついて行きたい」


 以外にも月子が声を出す。さきほどまで彼女は文化祭に対して我関せずという態度だった。ダンジョンの乱入を目撃すればわかるけど、彼女の足腰は鍛えられている。力のない俺よりも心強い。


「じゃあ、ついて行くよ」


 ▼


 楓はバスで登下校をしている。高校は俺の自宅よりも近いところにあるようだ。

 女子のふたりを座らせて、俺は輪っかに指を入れて立つ。


「それにしても、ホットプレートありがとう」

「兄貴が使ってたからね」


 彼女には二人の兄貴がいる。二人共運動部に所属していたから食欲があり、二年前まで多用していた。しかし、今は独り立ちし両親と三人で暮らしていると語る。


「なんで月子が来たわけ?」


 腕組みして目横をあげた。


「文化祭やりたくないけど、何かせないかん。やけん、一つだけ手伝うことに決めたんよ」

「ズルいな」

「転校の知恵よ」


 彼女は人差し指でこめかみを叩く。彼女の機嫌が前よりも良かった。

 会話の途切れ目に、楓はすかさず突っ込む。


「加藤さんは転校ばっかしてたの?」

「そうそう。小学生の頃からそうやった」


 月子はダンジョンを広めない。聞かれたら答えるけれど、なるべく隠していた。


「え、友達と連絡とかとってる?」

「うーん。べつにどうでもいい」


 じっと見つめ合う。加藤は責められたような目つきに耐えきれず、俺に話題を振る。


「そういえば、文化祭の委員をやるタイプなんやね」

「何となくだから」

「浦賀くん。嘘はいけないよ」

「楓うるさい」


 鳥越の友人は笑をこらえきれないで、緩みきった顔をしている。


「実際、エナエナのこと好きなの?」

「え、好きなん!?」

「嫌い。対等になりたいだけ」

「え、好きなん?」

「話聞いてた?」


 バスは赤信号で停車する。隣の大人がよろけて一歩だけ横に踏み出していた。


「加藤さん。お節介かもしれないけれど、文化祭は一緒に回らない?」

「え、何で」

「えなのこと誤解しているみたいだもん。それに、この高校にいてよかったと思ってほしい」


 楓は俺が話したことを本人に聞かせた。強い抗議を目で感じたが風景を見て無視する。


「だりぃ」

「嫌?」


 バスは目的地に到着した。会話が途切れ、地面に降りていく。先頭の俺は小銭を余分に持って並ぶ。すると、月子が大きな金がないと慌てた。俺は足りる分を渡し、三人で街に降りる。


「よし。白河さんたちと回る」

「ホント?!」


 楓を先頭に家へ進む。俺は後ろの方で風の中から聞き取ろうとする。


「ただし、浦賀も一緒に行く」

「俺を巻き込むなよ」


 それはいいね、と彼女は俺の主張を度外視した。


「浦賀と鳥越をハッキリさせよう」

「だから、好きじゃねえんだって」


 二人は誤解をしたままで、家へ到着する。ホットプレートを回収し、2人だけでバスに戻った。

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