ルート21
伴美砂都
ルート21
真夜中の国道21号は宇宙へと続く滑走路のようだった。
岐阜市内から各務原のほうへ行く道は交通量の多さ以上に、スピード狂のような走り方をする車が多いので助手席にいても緊張する。
デロリアンみたいな車高の低い車が、左側から爆音で追い抜きをかけウインカーも出さずに少し前へ滑り込んだ。ほんとうに宇宙へ行くつもりなのかもしれない。デロリアンは宇宙じゃなくて、未来か。
運転席のひとの方を見る。端正な横顔は、怒っていない。左車線。安心する。それでもメーターに目をやれば速度は80キロを指している。免許をもたないわたしは、この複雑な機構を理解しない。
窓を開けてもいい、と訊くと、黙ったまま運転席側のボタンを操作して少し開けてくれた。強い風だ。風自体が強いのではなく、速度によるものだろう。入る夜風はつい一週間ほど前よりは、少しだけ、つめたいように感じる。
炎暑の八月を生き抜いた。年々、生きることだけで、いっぱいいっぱいだ。
カーステレオにはウォークマンが繋がれている。シャッフル再生されているいくつもの歌。このひとの好きな曲を、わたしも好きだなと思う。
数秒のインターバルがあり、どこかで聴いたイントロが流れた。キンモクセイの「二人のアカボシ」。
「あ」
運転席でこの曲をかけた人を、もう一人知っている。昔のことだ。
そうだ。あのときも、この道だ。もう二度と、もう、二度と、会うことのない人。二人ここから遠くへと逃げ去ってしまおうか、と歌。
「あ、嫌い?」
「・・・ちがう、なつかしかったから、」
デロリアンがまた一台わたしたちの車を追い抜き宇宙へ行く。左を向けばバイパスの下は暗く、前を見れば、道路の両脇の照明と、ぽつりぽつりとあるコンビニや飲食店のさつばつとした灯りがずっと向こうまで緩やかにカーブしていく。遠く目を凝らしても、海はない。
もう一度そっと運転席のほうを確かめる。横顔は、変わらない。眠そうでもない。音量をひとつ上げてくれた。わたしは、飛び去っていくものすべてから目を逸らすまいと前を向いて、短く瞬きをした。
ルート21 伴美砂都 @misatovan
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