自動ドア

伴美砂都

自動ドア

 わたしね自動ドアによく無視されるんだよね、目の前にいるのに開かないの、とさとみちゃんはパステルカラーみたいな高い声で言う。バカじゃないのとあたしは心の中で毒づいた。軽いから開かないんだよって、言ってほしいに決まってる。

 たしかにさとみちゃんは小柄で華奢で風が吹いたら吹き飛ばされそうに見える。膝丈のワンピース、シフォンのブラウス、ヒールの高すぎないパンプス、おっとりした高い声。

 さとみちゃんはかわいくて、あたしはさとみちゃんが大嫌いだ。


 さとみちゃんはいつも自分のことばかり話す。あたしはそれをあげつらって、さとみちゃんがいないところで悪口を言う。決してさとみちゃんのことを嫌いだからではない、さとみちゃんが悪いから。周りの女の子たちも、おおむねそれに同調する。



 学生課の入り口の自動ドアのところで、さとみちゃんと一緒になった。お手を触れてくださいのところに綺麗にマニキュアを施した細い手が触れると、ガラスの自動ドアは軽く開いた。


 「開くんじゃん」



 「ごめん」


 パステルカラーの声に、あたしは立ち止まった。


 気のせい、で済ませられるように言ったつもりだった。立ち止まってしまったら、あたしが悪者になってしまうのに、


 「ごめんね」


 つい、顔を見てしまって、ぎょっとした。

さとみちゃんは、能面のような無表情だった。綺麗にマスカラをした目は潤んでさえいなかった。立ちつくすあたしを残して、さとみちゃんは授業の終わった人たちの波の中に消えていった。

 あたしの目の前で自動ドアが静かに閉まった。

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自動ドア 伴美砂都 @misatovan

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