鎧洗いのアーニャ

@iwao0606

第1話

アーニャは、鎧洗いを生業にしている。

 鎧洗いというのは、文字通り、鎧を洗う仕事だ。

 戦いが終わると、いくつもの鎧が持ち込まれて、アーニャはてんてこ舞いになる。

 泥も埃も血も、ちゃんと落としておかないと、アーニャは親方にこってり叱られるのだ。

 アーニャは汚れひとつ残らないように、慎重にかつ手早く鎧を洗っていく。

 修理するのに汚れが残っていたら、都合が悪いからだ。

 もう使いものにならないほど損傷した鎧でも、しっかり洗わないといけない。

 鎧を溶かし、また新しいものに打ち直すからだ。


 時たま、戦いの最中亡くなったひとの鎧が、届くことがある。

 打ち直す必要もなく、主人を失った鎧は、二束三文で買い取られる。

 鎧は熱い炎に呑み込まれ、どろどろに溶かされ、形を無くす。

 そして、真新しい鎧に形を変えるのだ。

 わずかばかりの金を受け取ったものは、それでささやかな葬儀をあげるのだ、という。

 鎧を作ったものからの手向けだ、と知ったのは、アーニャが働きだしてからずいぶん経ったころの話だ。


 屈強な男たちの鎧は大きく、小柄なアーニャの身体なんてすっぽり中にはいってしまう。

 がらんどうの鎧のなから、アーニャは想像する。

 どんな戦いをすれば、こんな凹みができるのだろうか、ということを。

 どんな状況になれば、こんな穴が開くのだろうか、ということを。


 洗い終われば、そこからは親方たちの仕事だ。

 親方たちの隣で、アーニャはどうやって槌を打つのかを学んでいく。

 打つたびに上がる火花に、そっと息をひそめながら、アーニャはその激しさと切なさに食い入る。

 アーニャは、槌を持てる日を、いつかいつかと首を長くしながら、夢見る。

 ただアーニャの身体が小さいから、槌を打てるようになるには、まだずいぶんと夜を重ねないといけない。

 だから、今日も、アーニャは鎧を洗うのだ。

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