電子少女IV 1

今日も空は恨めしいほどの快晴だ。外では登校する生徒が群がり騒いでいる。俺は無気力なまま、ベッドに横たわる。

今日も不登校日数を更新した。両親に迷惑なのは承知しているのだが、やっぱり、まだ無理だ。立ち直れそうにない。


今日で姉がいなくなって一年経った。部屋の壁に掛けられたカレンダーは姉が死んだ日付のままホコリをかぶっている。

姉は半年前、塾から帰る時にホームから落ちて電車にひかれた。俺は部活帰り、電車が運転見合わせになっていたが、まさか自分の姉がひかれていたなんて思いもしなかった。帰宅すると両親が取り乱して泣いていたので驚いた。事情を聞いた時には、どうして良いのかわからず、ただ一緒に泣くことしか出来なかった。

ただ、俺が不登校になったのはこれだけが理由じゃない。

その数週間後、仲良くしていたクラスメイトが倒れてしまった。彼女はもとから心臓が弱く、学校でよく倒れていたが、今回は違った。彼女もまたいなくなってしまった。

俺は二人も大切な存在を失っているというのに、周りのクラスメイト達から「お前の呪いだ」だの「お前は死神だ」だのと訳をつけられて学校で孤立してしまった。

...もう、ウンザリだった。何も現実を考えたくなかった。


毎日ただパソコンと向かい合ってきたが、そろそろ人としてダメになりそうだ。

この一年間、一度も人と喋っていない。流石にやばい、このままだと一生人と話せなくなる気がする。口数が多い方ではないが、これ以上話せなくなったらどうやって意思疎通を図ればいいんだ!学校に行けばいいのか?いやいや、行けばまた孤立するだけだ。いや、待てよ、一年間出席してないが、単位大丈夫なのか?


「...あぁ、もうだめだ...。」久しぶりの発言がこれかよ...。もう終わってんな。

まぁ、とりあえずパソコンを立ち上げるか。

今日も朝からインターネットに入り浸って現実逃避。そんな自分が嫌いだが、もうこのサイクルから抜け出せない。気が付いたらもう夜になって、寝て、また朝が来て...。


そんな中身の無い生活を続けているある日、俺のパソコンに新着メッセージが届いた。知らないアドレスのようだ、一年間外と関わりがない俺に届いたんだ、きっと架空請求とかそういうやつだろう。身に覚えがないわけじゃない、昨晩観たサイトから流出したのかもしれない。いわゆるお子ちゃまには早い、お年頃の男子ならよくアクセスするだろうサイトだ。まぁ、架空請求のメッセージは届いたことがないこともない。また消せばいい。そう思って届いたメッセージを選択して『削除』を押そうとマウスを動かす...




...とその時、画面に『error』の文字が表示され、一瞬のうちに画面は文字で埋め尽くされた。急な出来事に動揺して何度も×をクリックすると、マウスから結構な電圧の電気が流れた。痛い。まさか、このパソコンもいなくなってしまうのか?マイパソコン!君までいなくなってしまっては俺は何をして生きていけばいいんだ!?昨日の自分の行動が悔やまれる。

神よ!もう俺はいかがわしいサイトは調べません!どうかこの童貞の行動をお許しください!!




30分くらい経った。パソコンの画面は砂嵐になったままで再起動出来そうにない......オワタ。俺のライフラインが、パソコンが無くなったら、冗談抜きでこれからどうすればいいんだ?

「...はぁ、頼むから戻ってきてくれぇ...。」

画面に向かって弱々しくどうしようもないことを吐く。まぁ、こんな童貞の願いなんて叶うわけないよな...そう思ってうずくまると、パソコンの砂嵐の音が消えた。遂に天国へ召されたか...。




顔を上げて画面を見ると、パソコンのホーム画面に戻っていた。




が、そこには知らない少女が立っている......

...ん?


『...わぁぁぁぁぁっ!?』







さっきは今までにないくらいに驚いた。相手も同じようでお互いフラフラ後退りした後、妙に長い沈黙があって、少女から喋り始めた。少し、情けない。

突然現れた少女はどうやらウイルスらしく、ネットの中を彷徨っていたところ、偶然俺のパソコンを見つけてやってきたらしい。いや、自分から名乗るウイルスは初めてだ。でも、ウイルスにしてはよく喋る。今時なんにでもAIが搭載される、もしかしたらそういう類のウイルスなのか?本人が言うには特に目的は無くこのパソコンに来たようだ。本当に何者だ?コイツ。とりあえず、お邪魔しますね。なんて言って画面の中で足を伸ばして座っている。妙に馴れ馴れしいやつだな...。

少女はまるで以前に会ったことがあるかのような口調で話してくる。でも、俺には緑色の髪の知り合いも、オレンジ色の瞳の知り合いもいない。ただ少女が着けている星のマークがついたヘッドフォンには見覚えある。多分、CMか何かで見たんだろうか。


「...というわけでここに来たんですが、さっきの電撃のお詫びではないですけど、私、タクヤ様のお手伝いをさせていただきます!

いやぁ、突然電気なんて流してすみませんでしたぁ!何か、こう、出会いには刺激がが欲しいかなって思いましてですね...。」

「刺激違いじゃないのか!?あれ結構痛かったぞ!?」

「まあまあ、そう声を荒げないでくださいよ〜!」

少女はコネクターの形をした尻尾のようなものを揺らしながら笑う。

俺は久しぶりに誰かと会話している、そのことに気がつくと、なんだか懐かしい感じがして、少し、嬉しい。

「あれ...。」

「...怒ったと思ったら今度は泣くんですか?

もう...ずいぶん情緒不安定な主人ですねぇ。

なんだかこっちまで不安になってきましたよ。」

「う...うるさいな。」

やっぱり情けない...。と思ったが、それ以前に...待てよ、何でコイツ俺の名前を知っているんだ?

ハッとして画面に目を移すと、少女は満面の笑顔で...

「ちなみに私、もうこのパソコンはハッキング済みなので、タクヤ様の自己紹介は結構ですよ?これからよろしくお願いしますね!

タクヤ様!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オリジンズ もなか @monakaorigins

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ