ウィンター・プリンセス1

マービルは彼の寝台で眠る少女の頬に、そっと優しく手をかざした。

「ああ、君はなんて美しいんだ。絶対に僕から遠ざからないでくれ。僕は君に誓ったんだ。君の人生は、僕が責任を持って預かるということを。愛してる。只管ひたすら愛してる。愛してる以上の言葉がこの世に存在するなら、僕はその言葉を君にかけてあげたい。それくらい好きで好きでたまらないんだ」

マービルは少女に優しく口付けをすると隣で目を瞑った。

「おやすみ、プリンセス。この時間は永遠さ。僕らの愛がある限り…」


次の日の朝7時。マービルは起きるとすぐにスーツに着替えた。そして、まだ眠っている少女の額に唇を触れさせると、

「行ってくるよ」

と呟いて、朝食を食べに街へ出かけた。

街はクリスマスに染まっていた。街の入り口に当たる、そしてシンボルでもある公園には大きな木が立っている。この時期はクリスマスが過ぎるまで11月からはずっと美しく着飾られている。


家を出てしばらくすると、いつものカフェがある。マービルはドアの前にある立看板を数秒見て、朝食を決める。

中へ入ると暖房が効いていて、心の中まで温まる。

「うーん、ここは本当に暖かいね」

「あら、マービルいらっしゃい。今年は本当に寒いわね。電気代は高いけど、お客さん居なくなるよりマシだからね」

「アミ、今日も来たよ。僕も昨夜はずっと冷たくって」

「あら、眠れなかったの?」

「いいや、睡魔には勝てないさ。昨日は仕事が大量にあったからね。おまけにチーフが仕事終わりに飲もうって誘って来ちゃって、お陰でバーの閉店まで付き合わされたよ」

「それは大変だったわね」

「朝はあまり重くないのがいい。サラダセットで頼むよ」

「分かったわ。ちょっと待ってて」

アミはサンドイッチとサラダを皿に盛り付けた。そして、熱々のココアを淹れてお盆に載せた。

「はい、どうぞ」

「あれ?ココアは頼んでないよ?」

「いいのよ。本当に疲れたようだからね。あなたへの同情のココアよ」

「ありがたいね」

マービルは一口飲んだ。

「うーん、微妙にいつもより苦くないか?」

「同情の味よ」

「なるほど」

マービルはサンドイッチとサラダを平らげ、スマホを少しだけ触って店を出て行った。


外は相変わらず寒かった。

会社に近づくと同僚のダンが隣を歩いた。

「おはようマービル」

「ああ、ダンか。」

「昨日はお前の部署、大変だったんだって?閉店まで飲まされてマービルは目が死んでたってジェームスから今朝連絡が来たよ。」

「ああ、その通りだ。全く。本当に困ったもんだよ。ジェームスは大丈夫だったのか?」

「あいつ今日は休むってよ」

「いいな、あいつチーフに好かれてるからな。俺なんか嫌われてるから休んだらどんな仕事押し付けられるか分かったもんじゃないさ」

「仕方ないよ、みんなそうだ。あいつぐらいなもんだよ。それにしても本当に寒いな。俺は冬が嫌いなんだ。冬がなくなるなら神だって裏切れるぜ」

「そうか?僕は冬が好きだよ」

「なんだ、神に媚び売ってるのか?」

「勝手に神に喧嘩売ったのはお前の方だろ。いいじゃないか。この雪の冷たさ。少しばかり魅力的に感じないか?」

「お前の言うことは理解できないよ。昔からね」

「悪かったね」

2人は会社のビルの中へ入った。

「やっぱり中は暖かいねぇ。俺はやっぱり寒いより暑い方がいいね。ここで暮らしたいよ」

「そんなことできるのは世界でも日本人だけだよ」

「あいつら冬が嫌いだったのか?ハハハ!」

そう笑いながらダンは自分の仕事場である6階へ行った。

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