幸せは雨とともに。
雨漏りの少女と雨嫌いの少年
世界には、不幸が満ちている。
今日考えることのできない、誰かの苦しみには何もしてあげられない。
死なないことすらも、誰かにとっては不幸である。
自分勝手に判断することすらも、自分に幸せをもたらすわけではないのだ。
無論、この物語の能力が無い少年にとっても、同じことが言える。
■■■
ある日、枯草が自分の腕の骨折を治したころのこと。
彼は、自分が倒れていた時に話しかけてきた少女のことを思い出していた。
「普通、あの状態の人間をほったらかすもんかよ……? ったく、モラルのない人間はこれだから困るぜ」
枯草は、ブーメランになって自分に帰ってくる愚痴を一人こぼした。
もっとも。もし彼が自分と同じ状態の人間を見たからと言って、
助けるはずもないのだが。
何しろ、枯草という男は人一倍ひねくれているとともに、元悪人であるのだ。
『すべての責任は、当事者が支払うべきだから。』
きっと彼に質問すれば、そんな答えが返ってくる。
彼には親がいない。兄弟もいない。親戚もいない。
勿論、友人だっていない。
元々通っていたはずの大学も、今となっては名目だけのものになってしまった。
彼が、そういう風になったのには、少しばかり長い説明が必要となるので、
ここでは割愛させていただく。
それで。
そんな彼は今何しているかというと。
「あはははははははっはははははははははは!!!!!」
狂うように笑っていた。
よく見ると、周りには倒れている少年少女が数人。
……どうやら、彼に敗北したようである。
「勝ったあ!! 勝ったぞお!!! あははは、やっとだ。やっとやっと、
『正義システム』の連中に、一泡吹かせてやれた!」
正義システム。
この世界では、政府の元、10代の少年少女には「正義」が教えられている。
どうしてそんなことをしているのかというと、
いつかくる世界の最後を回避するためである。
ビー! ビー! ビー!
「ッと……!」
警報音を聞いて、枯草は、脱兎のごとくその場所から逃げ出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この世界の住人は、二種類に分割される。
正義の象徴とされる、「晴れの一族」。
不幸の象徴とされる、「雨雲の一族」。
先ほど述べた世界の最後とは。
この世界が、壊れること、そのもののことをさす。
晴れの一族は、光をもたらし、
雨雲の一族は、闇をもたらす。
二つの種族は、互いに嫌いあっている。
では、このお話の主人公たる、枯草はどっちにいるだろうか?
それは。
「枯草ああ!! この晴れの恥さらしがあああ!!!」
今彼を追いかけている、彼の母親が教えてくれるようだ。
何故か、右手には鉈を、左手には日本刀を持っている。
「うっせええ!! 俺は絶対に『晴れ』の宿命なんて背負わねえよ!」
彼も彼で、特段足は早くなんて無いのだが、彼の母親も全然早くはないので(無駄に思い武器ばかり持っているから)すぐに捕まえられはしない。
第一何で、危険物持った母親から逃げないといけないんだ。
ひとしきり追われた後、やはり母親が断念した。
「はあ、はあ。なんで、あいつだけ。『正義プログラム』の影響が無かったんだ?
全く、昔から、はあ、劣っちゃいるとは思っていたけど、まさかそこまでとは」
彼女は一人で、愚痴をこぼした。
♢♢♢♢♢
「ふ、、、、ふ、、ふ、。」
息を整えながら、枯草は考える。
もうやられてばっかりじゃない。これからは俺の意思が通せるんだ。
「……、へへ」枯草は悟ったように、グレーの雲が空を包んでいくのを眺める。
そろそろ、雨が降る時間だ。
また、あいつに会える。
晴れの一族は、雨の日には外には出ない。
それがルールだ。
まあ、ルールがなくとも、普通の人間であれば雨の日に好き好んで外に出ようとは思わないだろうけれども。
ポツポツ、ぽつぽつ……。
ザーーーーーーーー。
雨が降り出した。
体をぬらしながら、彼は、物を考えようとした、、が。
「何してるの。ひねくれ」
そんなぶしつけな声が頭上から響いた。
思わず目を上に向けると、それまで体を預けていたビルの屋上から、
人が落ちてきた。
空中で、そいつはクルクルと回転し、空気を蹴って
きれいに地面に着地した。
肩まである茶髪の髪をはためかせた、枯草とあまり年も変わらない少女。
「……おっはー。
「よう、
そうやって、彼ら二人は、また雨の日に出会った。
雨に狂えば。 黒犬 @82700041209
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