俺と彼女のパッションが凄いんです!

瑞風雅

第1話 始まりの物語


 俺、高島晴樹は授業中にも関わらず、窓際の席なのを良い事に、雲1つ無い真っ青な空を、ひたすら眺めていた。五月晴れの良い天気だ。



 高2になってからも、何の目標もない。繰り返しの毎日に嫌気がさしているだけだ。



 俺のやりたかった事はこんな事だったのか!?周りとの距離感を感じる日々に憤りを感じながら今を生きている。今を突き動かす気持ちは、何なのだろう!言い知れぬ孤独感が、堪らなく嫌だ。



 高校2年になるのに友達も多く無いし、当然ながら彼女すら出来ない。



 自分で言うのもなんだが、顔も竹下凉真に似ていて、髪型も竹下涼真に似せて爽やかなショートカットにして、目元も大きなクリッとした目に二重で少し目尻が下がっていて、鼻筋もスッキリと通っていて、口も輪郭に合わせて綺麗に収まっている。笑うとエクボが出来て、イケてると思う。身長も178cmあって、運動もソコソコ出来るし、勉強も嫌いではない。彼女が出来てもおかしくないと自分では思う。



 しかし、周りの女の子達の噂を聞くと、俺は、いつも遠くを見つめていて、自分達と違う世界を見ているみたいで近寄り難い雰囲気を醸し出しているらしい。俺と話をすると緊張するらしい。ただ空を見ているだけで、別に何も考えていない。女の子達の勝手な勘違いだ。



 俺からすれば、もっと、フレンドリーに話しかけて欲しい!本当は彼女欲しいんだけど、女子が緊張して俺に近寄ってくれないから、俺も女子と話すキッカケを、見つけられずに今まで過ごしている。キッカケが掴めない。



 リア充爆発しろ!



 窓の外を眺めていると、時々思い出す。俺の小学校で流行っていた、あのはん登棒での思い出の日々を。



 楽しかったなぁ。



 思えば小学生の頃は、グループなんて関係なしに遊んでたよなぁ。俺の小学校で流行ってたのは、はん登棒だ。登り棒の方が、分かりやすいか。



 俺は、夢中で時間があれば、ひたすら登っては降りて登っては降りてを、繰り返し繰り返し行って、股の間が痛くなるまで夢中でまたいでいた。

鉄の棒を毎日握って、登り棒の汚れた手をズボンで拭くのだが、帰ってから母さんに「ソコばかり汚れて何を考えてるの!?洗濯機で落ちないから、手洗いで一生懸命頑張って落としてるのよ。いい加減にして頂戴!」といつも怒られていたっけ。登り棒に夢中な理由が言えなかったなぁ。



 登り棒で降りる時の爽快感は、他の遊具にない満足感を味わせてくれる。遊んでいる時に必ず「おーっ!」って言葉が出て、恥ずかしかったのを覚えている。親友の輝も、横で同じ様に呻いてやがる。



「気持ちいい〜!堪んね〜っ!」


「おいおい、露骨に言うんじゃねえよ! 輝の馬鹿野郎!」



 全部で5本ある登り棒に我先にと、またがる男達の顔は同じ気持ちなのを容易に想像できるし、叫びながら登り棒を掴んでいる。俺の周りでは、取り合いになる位に皆が、夢中になってたっけ。お股をグリグリされて、爽快感が最高だし、運動場は皆が笑顔で居られる、最高の場所だった。



 その時に思ってたのは、この快感の虜になった猿ばっかりだよ!俺の周りは・・・皆、もう登り棒無しの人生は考えられないんじゃないかと、いつも思っていた(笑)



 猿共め!!



 そして、登り棒で必要な事が、好きな女の子の事を考えながら、ひたすら遊ぶ!その一点だけで、天にも登る最高の道具になるんだ。俺は、同じクラスの夏菜ちゃんの事が好きだった。性格は控えめで、おっとりした性格の可愛い感じの女の子だった。俺は、脳内に焼き付けた夏菜ちゃんの事を考えながら、はん登棒で遊ぶのが好きだったし、俺のがパッションも爆発してたわ。毎日!



 そんなパッションを爆発出来る遊具だから、当然、早く変われ!って、他のクラスの生徒なども来て、喧嘩になる一触触発な状況は毎日の出来事だった。独占は無理だったので、ある程度の妥協をして、登り棒を仲良く使ってたので皆が笑顔だったし、文句を言う奴も仲間って感じだった。だって、同じ目的の仲間って、連帯感があったもんなぁ。小学生の頃にパッションを爆発させても、登り棒なので文句は言われないし、遊んだ後の爽快感は今でも羨ましいし、良い小学生時代だったわ。マジで!




 そんな事を考えながら、遠くを見つめる。たまに、授業を聞かないとダメだと思い教室の方に目を向けると、クラスメイトの女の子と視線が重なる。なんだ!? 俺の方に何かあるのか!? そんな事を考えながら時間だけが過ぎて行く。




 変に大人になって、込み上げてくるパッションを出す場所が無くなってしまった。「もっと楽しみたいなぁ!」そんな事を考えてたら、授業が終わってしまった。ヤベ〜!授業なんも聞いてねぇわ(苦笑)

まぁ、幼馴染で同じクラスの輝にノートを写させて貰ったら問題ないし、良いっしょ(苦笑)



 言っとくけど、俺は成績は良いんだよね。それも、自慢できる位には。記憶力が良いお陰で授業を受けて、家に帰って復習をしっかりしたら、問題ない。なので、外を眺める事が多いのだが凄く難しい顔をしてるらしい。友達から「今日も考え事か!」と言われて「将来の事を、考えてる! 今は俺の自由が無いから悩んでる」と答える。



 聞いてきた友達は、口元をヒクつかせて「そんな難しい事を考えてるのか、スゲーな高島は。俺なんて、学校が終わってからの遊びの事しか頭にないわ。」



「俺も考えたくないけど、考えないと自我が崩壊すんだよ」と、素っ気なく答える。



 そこに、親友の輝も話に加わって来た。輝は、彼女持ちのイケスかない男に、なってしまった。軽音楽部に入っている。中学から女の子にモテたいって理由だけで、ギターを始めて、高校に入学して部費が欲しくて、軽音エレキ部を作った腹黒い男になってしまった。部員には、女の子も居るし、完全に私利私欲で学校ライフを満喫中で制服も着崩して、ワ○オ○のTakaに雰囲気を近づけている。



「晴樹どうした?」


「輝、聞いてくれよ!やらかしちゃたよ!さっきの授業のノート貸してくれよ」


「またかよ。ちょっと成績良いからって、授業聞いてないのは、ムカつくんだけど(笑)」


「頭の出来が違うし、お前みたいにチャラ男じゃないからな。帰ってから真面目に勉強してるしな。そんな事よりノート貸してくれ。マジで」


「じゃ!ジュース飲みたいから買って来てくれよ。それでチャラで良いし」



 そこに、輝の彼女の紗良も話に入ってきた。彼女も輝と、同じ部活で輝の彼女になってから、軽音に入った女の子だ。小柄で少し赤味がかったエアリーショートが凄く似合っている美人系の女の子だ。



「私も、ジュース飲みたい!リンゴジュースが飲みたい」


「輝も紗良も、俺から金をむしり取るのか?ジュース買うのは良いけど、お前達に何かあってもタダで動かないからな!?」


「「「ゴメン!!」」」


「分かれば良いんだよ!分かれば!それよりノートを寄越せよ」



 俺は、ノートを輝から、借りると自分の机に入れて、輝達との雑談に集中した。




 次の授業が始まった。数学は、数式さえ分かっていれば解けるから、楽勝なんだよね。窓際は陽射しが気持ちイイわぁ。五月晴れだし眠たくなる気温だよなぁ。ついつい欠伸をしてしまう。マジで眠たい。



 ボンヤリと前を向いていると、同じ窓際の席の女の子が、外を眺めて溜息をついている。



 その子の名前は、伊井良ナオ。



 女の子の割に、背が高くて八頭身で体型も出てる所は出ていて、髪型もクラシカルストレートで、少し切れ長でキツイ感じで、鼻筋も綺麗で小鼻で、口元もプックリしていて、顔全体のバランスがとても良い。男子の中でも人気の女の子だ。



 あまり友達と明るく喋る感じではなく、数人でおっとり話す、お嬢様タイプで俺の好み。



 俺が後ろの席の為に横顔しか見れないが、見惚れてしまう。切れ長の目が一層険しく、何かを見つめている様な横顔に俺のハートがドキドキする。

ずっと眺めていたい!そんな横顔を授業も忘れて眺めていた。



 確か、紗良と仲よかったよな。それを思い出して、紗良に声を掛ける。



「紗良、ちょっと聞きたいんだけど、伊井良さんって、どんな子?」


「どうしたん?晴樹?ナオの事を知りたいの?教えてあげても良いけど、ナオは友達だから答えれる事は答えてあげるよ(笑) 」



 紗良は俺に質問された事が珍しいらしく、嬉しそうだ。これなら素直に答えてくれるだろう。



「男の好みとか、好きな相手っているの? 今日も顔を後ろから眺めていたら、可愛いなぁって正直思ったんだよね」


「彼氏はいるなんて聞いた事ないなぁ。好みかぁ……聞いた事無いよ。ゴメン、あまり答えられなくて」



 彼氏がいないと言うだけで俺にとっては、十分な情報だ。これで俺にも望みが出て来るかもしれない。



「いや、彼氏の存在が、分かっただけでも良かったよ(笑)ありがとう」


「晴樹は、良い奴だから応援はしてあげるよ」



 紗良の申し出はありがたいが輝に知られたくない。俺の弱みを握られたようで嫌だからな。



「今は、気になる程度だから、また相談する時に力になってくれたら良いよ。輝には内緒な」


「私は部活に行くね。貸し1つね」



 そして、俺は紗良との会話を終わろうとすると輝が近寄ってきて「2人で何を喋ってるんだ?」



「紗良に、輝が紗良を大事にしてるかを聞いてたんだよ」



 とっさに、伊井良さんの事をごまかす。紗良も話をあわせてくれる。



「教室に居ても暇だし、輝達の部室に行こうぜ。ジュース奢ってやるから。今日は特別だからな。有難いだろぅ」


「「「ごちそうさま」」」



 声までハモらせる事はないだろう。独り身の俺にはキツイっつーの。



「2人してハモるって熱いねぇ。俺も彼女欲しくなるわぁ」


「晴樹の事、良いって女の子多いよ。自分だけが知らないだけだよ。私の友達も良いって言ってるよ」



 それは本当か。俺は自覚があまりない。どちらかといえば女子に避けられていると思っていた。



「詳しく、話を聞こうか!早く部室に連れてけよ」



 俺は、2人と一緒に部活へと向かう。その間も、自分が女子からモテている実感がない。紗良の言葉がマジなら、素直に嬉しい。自然に口元が緩む。2人が俺の顔を見て、気持ち悪い物を見る様な目で見てくる。



「晴樹、気持ち悪いから顔を何とかしてくれ」



 本当に失礼な奴らだ!俺の顔が気持ち悪いだと!本当にふざけた奴らだ。まぁ自分でも、だらしない顔になっている自覚はあるから、黙って聞いといてやる。




 中々、今日は有意義な情報を貰えたな。紗良も以外と役立つ情報を持っていたし、もう少し2人には優しくしてやろう。そんな事を考えながら鞄を取りに教室に向かう。グランドからは、部活を頑張っている声が聞こえてきたが、校舎内は静かなもんだ。



 そんな事を考えて教室の前まで来ると、ガタガタと微かな物音が・・・

なんだよ。スゲー変な物音で気持ち悪いんだけど。



 オイオイ、あれって俺の席じゃん!なんで女の子が覆いかぶさってんだよ。前後に揺れてんだけど。俺は、あまりの出来事に近寄る事も出来ず、ただその女の子の行動を見守るしか出来なかった。



 その見守る行為も終わりが来た!いきなり、俺の机を揺すっていた女の子は、糸の切れた人形の様に力尽きた。



 どうしよう。鞄取らないと帰れないじゃん。こんな事なら、真っ直ぐに帰るんだった。知らん振りして、鞄を取って帰らせて貰おう。取り敢えず相手を刺激しない様に、近づいたら大丈夫か。



 近づいた瞬間に俺は何も考えられずに。



「 ヒッ 」



 と、自然に言葉にしたのだが、その相手は何と・・・



 伊井良ナオだった。



「 アッ 」



 と、まさかの出来事に一言だけ言葉を発した。そして、体を固めたままに、目を見開いたまま動かない。顔は何故か、ピンク色に染まっており上気している。



 俺も、どうしたら良いか分からずに 「俺の机で何をしてたの?」 と聞いた。すると、伊井良さんは「小学校の思い出ゴッコ」 と一言だけ、告げられた。



 俺の思考は、小学校?なにそれ?



 俺の机に小学校の思い出なんて、ある訳ないし、考えが追いつかない俺に、伊井良さんは言葉を続ける。



「私の小学校の時に好きな子の机を使うのが流行ったんだよね。それで高島君の机を使っちゃたんだ」


「どういう事?」



 どういう理由で俺の机を使ったのか意味がわからない。


「男の子って、高島君の小学生の時って登り棒って流行ってなかった?女の子は机が流行ってたんだよね。それを思い出して机を使ってたの」


「うん、俺も登り棒大好きだったよ」



 ピンクの顔色から、耳まで真っ赤になりながら、うつむきながらも俺に視線を向けて来る。、伊井良さんは凄く輝いて見えた。



 なんだろう、この可愛い生き物は!伊井良さんって、こんな子だったの?見た目と全然違うんだけど。



 あまりの出来事に、重要な事を忘れていた。伊井良さんは好きな子の机って、言ってたよな。俺の机を使ってたし、俺の事が好きなの?マジで信じられないんだけど。



 伊井良さんは、ずっと下を向いたまま何も言わない。俺がリードしないと・・・・・・



「伊井良さんは、俺の事が好きなの?」



 伊井良さんは、小さくコクッと頷いてくれた。



「俺、伊井良ナオさんが好きです。付き合って下さい」



 伊井良さんは、机で倒れてから始めて、顔を上げてくれた。



「よろしくお願いします」



 井伊良さんは頬をピンクに染めて、とても嬉しい花のような笑顔を俺に向けてくる。その笑顔がすごく可愛い。井伊良さんがこれから俺の彼女になるのか。



 マジで、両思いかよ。今日から彼女持ちかよ。それも伊井良さんじゃん。これも俺の机のお陰かな。



 俺達は、一緒に帰る事にする。伊井良さんの腰を俺に寄せて、寄り添う様に階段を一歩一歩、お互いを労わる様に歩いて行く。



「伊井良さん、下の名前で呼んで良いかなぁ」


「高島君の事も、下の名前で呼んで良いかなぁ」



そして、お互いに見つめ合う。



「ナオ」


「晴樹」



 熱い!熱い!顔が熱い!ナオも同じ状態で顔を真っ赤にしてる。マジで、熱が出てんじゃねえの。ドキドキするし、俺の、ドキドキ止まらないしょ。



 歩きながら、少しでも一緒に居たくて、家の場所を聞く。あれから、色々あり過ぎて時間もかなり経っていた。綺麗な夕日が俺達を照らしている。俺は、ナオに門限の時間を聞く。



「私、親に信頼されてるから、門限ないんだ。だから心配ないよ。何で?」


「2時間3,000円くらいで、カラオケもあって食事も安くて外見もお城みたいで、アミューズメントパークみたいな外観なんだ。2人で居るには最高の場所があるんだけど、俺に付いて来てくれるかな?」



 もう俺の心は止まらない。ナオの心も止まらないだろう。俺達を止める者は誰もいない。



「うん、晴樹となら、何処でも良いよ。彼女なんだから、任せるよ」


「絶対、幸せにするから、俺の側にずっといてね」



 ナオは、凄く嬉しそうに俺の腕に柔らかい感触を押し付けて来た。俺は、ドキドキが止まらない。ナオも俺を上目遣いに目をウルウルさせて、悩ましい目で俺を見てくる。お互いの気持ちは一緒だ。



 ただただ駅の方に、腰にお互いの手を添えて、2人寄り添って体を支え合って歩いて行く。



 お互いに見つめ合い微笑んで額を付け合う。ナオが「私、楽しみ」と小声で呟いた。俺もナオをに優しい瞳を向けて「俺も嬉しい」と答える。



 夕暮れの街に夕陽が沈んでいく。2人の影が一つに重なって、路上をゆっくりと歩いていく。車が行き交う道路の隣の歩道。しかし今日だけは甘い雰囲気が2人の周りを包み込んでいる。



 俺もナオもウキウキさせている心を内に秘め、2人寄り添ってゆっくりと歩いていく。

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