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 というわけで、日が傾く中、俺は道行く人に「頭大丈夫か」というような視線をライフで受けつつ、ギルドで見繕って貰った「激情!双頭の白蛇!」という討伐クエストを達成するべくアルカナの門をくぐった。

 やはり、大きさの割にかなり軽いししかも強いという高性能なエクスカリバーとイージスといえども今時のこの世界では剣や盾を持つというのは21世紀の女子高生がだるだるゆるふわの白いルーズソックスを履くほどに珍しいのだろう。

 俺はそんな事を考えながら、人が行き来し草が生えなくなって出来上がった道を遠くに見える洞窟型ダンジョンに向けて歩く。

 ところで、あの自称大魔王の担う「フロアボス」以外の魔物—————ゴブリンとかオークとか—————の被害はどれほどのものかをここで話しておく必要があるだろう。

 あくまで統計上だが実際のところ、小学生くらいの大きさの成人ゴブリンと出くわした冒険者の生存率は7割前後だ。ゴブリンより倍近く身体の大きなオークで6割くらいだと言われている。しかも、これは4~5人で組んだパーティーでの戦闘での話だ。

 だが、逆に考えれば、一般人などが出会ってしまえばいくら数十人いたとしても結果的にはやられてしまう。50メートル級の巨人しか頭を覗かせられない壁で周囲をぐるりと囲まれていない、ましてや戦闘を行える冒険者がほとんどいないこのアルカナという都市なんて、攻め込まれたら二晩くらいで落とされてしまうのは自明だ。

 がしかし、それが杞憂である事は、市民の皆の常識だった。俺もついさっき初めて生で見たが、あの威力には驚きを隠せなかった。

 大きな前歯のウサギがとりあえずと言わんばかりに取り付けられた低い木製の柵を飛び越えて、アルカナの民の畑に入ろうとした瞬間だ。

 ビっ。

 ほぼ同時にジュっという音。

 そう、どこからともなく飛んできたレーザーがその容姿は愛らしいウサギの様な魔物を打ち抜き、焼いて、蒸発させてしまったのだ。

 ここでは確か、「自立型感知式追尾レーザー」とよばれていたか。どうやらそれが魔物が街に接近した時作動するようだ。

 というわけで、アルカナへの脅威は限りなくゼロに近いのである。街にいる限り安全は保障されているし、かと言って食料にも困らない。平和な暮らしが確実にそこにはある。

 まあだから、わざわざ安全圏から出て魔物をやっつけに行くヤツが変人扱いされるわけなのだが。

 それでも俺はこう難易度クエストを受けないわけにはいかない。それも、世界の為に。

 もしかして俺は、本当は随分とカッコイイ事をしているんじゃないだろうか。



 そんなこんなでやってようやく着いた、お宝眠る洞窟ダンジョン。

 陽が落ちて辺りはすっかり暗くなっていた。気温がグッと下がって指が冷たい。

さっきよりも魔物の鳴き声が近くに聞こえる気がするのはこの緊迫した雰囲気のせいだろうか。

 日本産まれ日本育ちの俺には、産まれて初めて「死と隣り合わせ」とかいう状態だった。

 俺は途中から杖と化していたエクスカリバーを構えると、ふうっと一息ついてからそろそろと洞窟へと足を進める。

 洞窟内は濡れてテカっているごつごつとした岩肌に囲まれていた。

 しかしながら、見た目に反して暖房が効いている様に温かい。ちょうど、このアルカナがある地方は今は晩秋らしいので、外との寒暖差が良く分かる。

 俺はさらに奥へと足を進めていく。誰かが一度訪れた事があるのか、下へと降りる道には簡易だが階段が設置されていた。

 そのまま道なりに進んで行く。

 突然の事だった。


「おわっ!」


 何かぬるっとしたものが頬をかすめた。俺は驚きながらも咄嗟に屈みこむと、背の鞘に入れたエクスカリバーの柄に震えた手を掛ける。


「………。」


 俺は基本的に幽霊の類は信じてはいない。テレビでやる心霊特集はやらせだと初めから割り切って見ていたし、金縛りだって身体の疲れが起こす睡眠障害の一種だと分かっていた。

 だが、ここは異世界だ。

 言わずもがな「アンデット」とか、「ファントム」といった類の幽霊系?が少なからずいる。

 だから決してビビっているわけではない。単に警戒しているだけだ。変な勘違いはよしてくれ。

 だが念仏を唱えてまで警戒していたのだが、結局、しばらくの間待っても何も起こらなかった。



 それからは、えさを付けずに魚のいない湖に釣り糸を垂らして一時間待った後のように得られるものは何もなかった。

 いや、強いて言うなら数匹のグレムリンを薙ぎ払った。エクスカリバーの切っ先をちょんっと触れさせただけの戦闘だったので、べつに特筆すべく事でもないだろ?

 そしてあっという間にボス戦。

 相手はしっぽにも頭が付いている、所謂「双頭」の大蛇だ。一度に二度攻撃してくる厄介な魔物らしい。会敵したことのある冒険者がほとんどいないせいか、クエスト依頼用紙に書いてある情報もこれくらいしかなかった。

 道の生物との遭遇だった。死ぬ確率だって飛空はない。

 だが、ようやく異世界最強系主人公らしい戦闘が出来るのだと思うと、俺は内心少しワクワクしていた。

 どう考えたって恐ろしいじゃないか、だって?

 馬鹿言え。



 蛇は幽霊系じゃないだろ。

 

 

 

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