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これまでの話をまとめると、というより目を通しておいてと自称大魔王に渡された資料「ゼロから始める異世界生活」によると、俺はこれから異世界にて一芝居を打たないといけないらしい。
というのも、俺は隠居したボスモンスターの代わりにフロアの最奥にいる自称大魔王を打ち倒すフリをしなければいけないのだ。
少年少女、いや大の大人がそろって皆、「勇者」改めて「最強系主人公」には憧れるのは、どこの世界でも同じなのだろう。
それはきっと「自分もこうなりたい」という誰しもが持つ願望だろうからな。俺も小さい頃はアニメを見るたびに思ったものさ。
それが地域の活性化に繋がって、異世界が異世界である為の成分「ファンタジーα」を生成するようだ。簡単に言ってしまえば町おこしだな。
お駄賃程度に支給された「どんなものでもサクッと切れる剣」と「どんな攻撃もビシッと防ぐ盾」は、それまでの道中に出くわす雑魚モンスターをらくらく攻略するためのものらしい。
これさえあれば死ぬことは絶対に無いそうだが、それでも「Re」ってついてないあたり、一回死んだら終わりなんだろうな。
「それで、その武器は?」
「その辺にあるのがそうよ」
そういって自称大魔王はごろごろと溢れんばかりにある武器の山を指さした。最強がこんなにあっていいのだろうか。
多少の文句はあったが、俺はその中から特に装飾の良い剣を二本選び取った。
もちろん、ユニークスキルなんてのは持ち合わせていないが、それでも二刀流に憧れる気持ちは常に持ち合わせているのだ。VRMMORPGが開発されたらベータテスターに当選するかもしれないからな。
「あ、ダメよ二刀流は」
しかし、すぐに自称大魔王からお叱りを受けた。そういう事は剣を目の前にする男子高校生には先に言っておけよ。
「何かあるのか?剣が暴れ出すとか、呪われるとか」
「いや、そういうんじゃないけど。強いて言うならSAN値が下がるわ」
「強いて」じゃなくても言っておけよ。邪神に目をつけられたらどうするんだ。
俺は名残惜しさを感じながらも一本剣を置くと、ほかに盾を選び取ってから再び資料に視線を巡らせた。
―――――以上。
国語辞典くらいの分厚さがあるのに、説明がこれだけだった。ちなみに、残りの数百ページは全て引っ付いて、一つの塊になっていた。
俺が張りぼての資料から目を上げると同時に自称大魔王が口を開く。
「それじゃあ頑張ってちょうだい。―――――あ、あとこれ腕に着けといてね」
そう言って俺の方に差し出してきたのは腕章だった。蛍光色を基調とした派手なもので、一周する様に何かが書かれている。
『異世界製作委員会』
まんまだなおい。と、俺がまだまだ必要十分に達していない情報量をもう少し聞き出そうとした瞬間、
「じゃあね」
自称大魔王は淡い光となって消えた。
「おい!まだ聞きたいことが………っ!」
それを見て改めて実感する。
ここは本当に非日常なんだと。
俺はポケットに受け取ったやたらめったらダサい腕章をしまうと、胸ポケットからメモ帳を取り出した。
実は、結局返してもらえなかったあの俺のノートには、俺が主人公の小説の設定がところせましと書いてあったのだ。
主人公が異能力を使って学校のさまざまな問題を抱えた生徒を救う、そんな話。後から付けるという作家が多いらしいが、ちなみに題名は「とある錬金術師の全体攻撃は二回攻撃」。
それはいつかどこかの新人賞にでも応募しようと思っていたヤツだ。
だが、それはやめた。
今更「異世界もの」なんてどうかと思うが、きっと俺がこれから実際にする経験を書いた方が入賞できそうだと思ったからだ。
そのためにはまず、細かいネタ集めをしなければならないだろう。作家っていうのはアイデアと経験の多いほうが圧倒的に有利だろうからな。
だから俺はメモ帳のページの最初に、
“大魔王っていうのはセーラー服を着ているものらしい”
そう書き込んだ。
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