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 こんな時、俺も誰かに信じてもらえたならノートを見つけるどころか空を飛ぶ事だって、湖の水を飲み干す事だって出来るのに………。今はこれが精一杯。

 というわけで早くも最終手段。たぶん見つかれば停学くらいは食らうかもしれないが、俺は入学式中にここにある下駄箱全てをチェックする事にした。人は本当に望むものを手にしたい時、手段なんてのは択ばないのだ。

 幸い、今日は教師陣も皆体育館で行われている入学式に参列している。多少手荒になったとしてもバレる事はないだろう。あとは体育館からの教室移動の列に微笑を浮かべながら混ざり込むだけだ。

 俺は下足場に入ってすぐ右の、まだグラウンドから靴底に運ばれてきた砂のほとんどない方へと向かった。

 この高校は盗難防止の為に各自下駄箱、通称「ロッカー」に一〇〇円ショップかどこかで購入した南京錠を掛ける事になっている。それはパンフレットの最初の「入学式の持ち物」欄に書いてあった。

 しかし、大概の、というより見た感じ九割以上はダイヤル式を使っている。カギの扱いが面倒だからだろうな。ちなみに俺は買ってすらいない。

 まあ、この高校のロッカー事情はそれくらいにして、とりあえず俺は少ししゃがみ込んで一年一組一番の下駄箱に手を掛けた。

 あくまで独り言なのだが、ダイヤル式の鍵ってのは一番右端か左端を上下どちらかに一つだけずらせばほぼ開くもんなんだ。

 俺は焦る気持ちを抑えてロッカーを開けた。

 特に緊張してはいなかったはずなのだが、やはりそれなりの緊張感や罪悪感を抱いていたのだろう。ちょっと手の甲がロッカーの淵に当たってガシャンと音を立てただけで、自然に身体が真後ろに置かれたキュウリに気づいたネコのごとく飛び上がった。下足場ってなんであんなに音が響くんだろうな。

 まあ、それくらいの音でも飛び上がるほどなんだから、放送する時によくある「キーン」ってやつ。あれとかいきなり校内に鳴り響いたらどうなるかは想像がつくだろう。


「ひょえっっっつ!」


 答えはこの情けない声を聞いて頂いたら分かるな?

 正直、口から心臓が出るかと思った。思わずブリッジ一歩手前くらいまで反り返っちまったぜ。スーツにサングラスじゃなくても弾丸を躱せる反応速度だなこりゃ。

 少し大きな声を出したくらいでは誰かが来るとは思えないのだが、俺は横断歩道を渡る時のように左右を確認した。

 と、そこで天井付近に設置してある校内スピーカーから、ガガガっというノイズが聞こえて来た。俺はまた身体をビクリとさせる。心臓が痛い。

 だが、そのスピーカーは早鐘の如く脈を打つ俺の心臓にさらに追い打ちをかけるような事を大音量で発しやがった。


『―――――えっと……、右手は幻想をぶち壊せて左手は添えるだけ。合掌してから地面に触れると大概の事が出来る能力を持つ七人の大天使の生まれ変わりの一人である桜井ワタリさん。至急、生徒会室まで―――――』


 この春から高校生になりました。一年三組一〇番。

 どうも「桜井ワタリ」です。

 もう教室で自己紹介をする機会がなくなってしまったので今しておきました。

 もちろん、俺にそんな能力はない。ちなみにこの場合、「能力」と書いて「ちから」と読む。

 って、そんな事はどうでもよくて、ついに終わってしまった俺の高校生活。これがあの「終わりの始まり」ってやつなのだろうか。

 実際に死んだりはしないのだが、華々しい高校デビューは出だしどころかウォーミングアップで怪我をしてしまった。ついでに俺の、将来的に女医さんか政治家と結婚するという野望も潰えてしまった。どこの世界に男子現役中二病と交際したいと言うやつがいるんだ。どうにか破ぜろリアル。

 思わず己の運命とやらを呪った俺だったが、それでもノートを回収しないわけにはいかない。

 この高校に残り続ける為の最終手段として、親に土下座して苗字を変えてもらおうと思っていたからな。その場合は絶対に「五十嵐」か「小鳥遊」にしようと思っている。

 とりあえず俺は放送で伝えられた通り、生徒会室へと向かった。

 どこのどいつだ。人のノートの内容をべらべらと言いやがるのは。プライバシーを侵害する悪魔め。


 カワイイ女の子じゃなかったらぶん殴ってやる。

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