第5話 妄想の続き

 先日の妄想をUPからだいぶ日が経った。


 次の妄想が浮かばず日々のあれこれに忙しくしていたこの間に、先日の妄想の半分ほどが実現した。


 ……そう、私は恋に堕ちたのだ。


 彼は研究者だ。妄想のとおり。

 准教授ではなく、実際は講師だった。

 妄想では理系を想定していたが、実際は文系だった。

 童顔の5歳年上ではなく、老け顔の5歳年下だ。

 初めて会った時は、えたいの知れないオッさんとマジで思ったくらいだ。


 失礼を承知で表現すると、女っ気がなく野暮ったい感じは妄想の通りだった。

 だが。

 声は理想どおりだった。

 系統でいうならホワイトタイプ。それこそ眼鏡はつけていないが彼はホワイト系の人だ。

 指が骨ばっていて細長く、素早くiPadを操作し的確に助言をするその姿は、まさに妄想のとおりだった。

 怒っているのかと思うほどとっつきにくい第一印象とは異なり、彼の声音は優しく、その発言内容はとても真摯で、真面目で不器用な性格が察せられた。

 

 最初は自覚がなかった。しかし、確かに何か意識をしていた。

 2回目に会ったときに確信した。

 私、この人が好きだ……と。


 

◇◇◇


 その人と出会ったのは、恩師に誘われた某研究会だった。

 自分の専門領域とはことなるがこれはチャンスだと思い、二つ返事で参加を承諾した。

 その研究会に、彼はいた。

 聞けば恩師の教え子の一人だという。つまりは私の兄弟子というところか。

 

 「堕ちていた」と気づいたのは、研究会で出されたお茶の片付けをその彼と私とでした時だ。

  二人で会場の隅の給湯室で茶器を洗いながら、その彼の優しい声音と細長い指を見たときに、子宮が疼く感じがしたときだ。

「やばい」

と思った。

 自然な出会いを求めていながら、恩師が関連するところでの出会いはちょっと避けていた。

 人間関係のゴタゴタでせっかくの貴重な研究の場を面倒臭い場にしたくなかったからだ。

 だけど私の心は、静止が効かないうちに勝手にその人をロックオンしてしまったのだ。


 そうなってからが、苦悩の連続だ。

 えーーー??

 昔の私はどうやって恋愛期間を生き延びてきたのだろう??

 恋ってどうやって進めていましたっけ???

 

① 連絡先のゲット→すでに研究会のメーリングリストの中に彼も入っているため、私のアドレスも公開だが彼のアドレスも知っている。それよりもっと個人的な連絡先の入手が必要なの??

② まずは、「女」として認識される?→いや、生物学的に女なんだからすでにされているだろう??研究会のメンバーの一人ではなく性的対象としての「女」になりたい。特別なメンバーになりたい。ってそれはかなりゴールに近い設定か??

③ 研究会以外の個人的なやりとりが出来る→ってこれは。すでにそういう関係性にならないと難しいだろうな。なぜなら、彼のキャラクターからは「朴念仁」という匂いしかしてこない。


 ②に関しては、微妙なのだ。

 彼がこれまた違う研究会で演者となっていたときに、メンバーで応援に行ったときのこと。

 開始時間ぎりぎりの到着となった私。

 すでに壇上にいる彼。

 入り口で手続きを済ませ資料を受け取った私が、空いている席に向かおうとして自然と彼を探していたときに壇上の彼と目があった。軽く黙礼をする私。

 彼の発表が終わったあと次の演者が壇上にたった際、私用でひっそりと退出する私を見ている彼の視線に気づいていながら、恥ずかしさのあまり今度は黙礼ができなかった。

 しかし、これはきっと私の気の迷いだ。

 これこそ私の妄想であり、きっと錯覚であり勘違いなのだ。


 そう。

 今まさに確認したいことは、彼にとって私は恋愛対象としての圏内か否かだ。

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