ユカ㉑
何回聞いても慣れないこの爆音。
眩しすぎる照明。
シャンパンタワー前に群がるホスト達。
その中央にいる俺とユカ。
ユカも初めてのシャンパンタワーだった。
ユカは緊張していた様子だった。
タワーの途中、ユカからサプライズのプレゼントを渡された。
シャンパンタワーに関しては聞いていたが、このプレゼントは聞いてなかった。
コルクボードに従業員みんなのメッセージを張り付けたものだった。
正直、まったくいらなかった。
女はほんとにこういうのが好きだ。
ホストを始めてからつくづく思う。
サプライズ、寄せ書き、アルバムなど。
俺には何が嬉しいのかわからなかった。
どうでも良かった。
シャンパンタワーも無事終わり、俺のラストソングを歌ってイベントは終わった。
俺はいつも通り、営業後の片づけに参加した。
「今日の主役だし片づけしなくていいよ。」
ヒカリにはそう言われたが、なんか仕事をしていたかった。
手を動かしていたかった。
ユカは営業が終わってすぐ、仕事に戻った。
家に帰って俺はすぐに寝た。
たいして酔ってもなかった。
もっと頑張ろう。
それだけ思った。
家に帰り、シャワーを浴びる。
自分の結果に全然満足はしてなかった。
3回目のバースデーイベントだというのに、まったく忙しくならない。
俺はいつになったらカナデのようになれるのだろう。
バースデーのモヤモヤを払拭させるかように、髪の毛に着いたスプレーをシャワーで洗い流した。
とりあえず明日、明後日は休みだ。
切り替えよう。
終わったことはもうしょうがない。
俺は何も食べず、布団に入り、寝た。
その隣にユカはいなかった。
朝起きると、ユカが隣で寝ていた。
俺は落ち込んでもいなかったし、吹っ切れていた。
ただ、なんとなく何もしたくなかった。
歯を磨き、気が付いたら行きつけの喫茶店に向っていた。
オシャレなカフェではなく、喫茶店。
若い女が好きそうな店は、俺には落ち着かなかった。
俺はクラブのような音楽が爆音、照明をガンガンに着けているような空間も苦手だった。
普段からそんな所にいる俺は、昔ながらの喫茶店のような静かな場所に行きたくなる時があった。
こういうのを都会のオアシスとでもいうのだろうか。
ここの喫茶店は俺のように20代の客はいなかった。
40~50代ばっかだ。
そこでなにをするわけでもなく、何を考えるわけでもない。
たまにスマホをいじり、たまにトイレに行く。
俺にはそんな時間が、時々必要だった。
そして、いつもアイスコーヒーをおかわりした。
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