ユカ⑳

俺はその日、いつも通り出勤した。


ユカの連絡は相変わらず無視していた。


イライラしてたのを晴らすように、俺はめちゃくちゃ酒を飲んだ。


営業が終わり、家に帰るとユカからLINEが来ていた。


「父さんと話したから明日帰る。」


「はい。」


とだけLINEを返し、酔ってたこともあり俺はすぐに寝た。


翌日、目が覚めるとユカがいた。


「おはよう。」


「おう。」


父親の件に関しては特に触れなかった。


もはや、めんどくさかった。


他人の家庭内のことはもうどうでも良かった。


ユカに対しては「早く出勤しろよ」と言う感情しか沸かなかった。


話す気も起きなかったので、口には出さなかった。


その空気感を察したのか、元から出勤時間だったのかわからないが、ユカは家を出ていった。


「行ってくる。」


その一言だけを残して。



バースデーが近づくにつれて俺は焦ってきた。


日々落ち着かなかった。


しかし、そんな焦りや努力も意味なく、ユカ以外の客は出来なかった。


いや、焦っていたからこそ出来なかったのかもしれない。


バースデーが近づく度に「人は他人のことなど、どうでもいい。」ということを強く感じる。


バースデーが近いとか関係なく日々時間は過ぎる。


俺がどんだけ焦ったり、悩んだりしても営業は通常通り行われる。


従業員ですらそうなのに、他のホストの客なんかはもっとそうだ。


どれだけ悩んでも結果は変わらない。


それはわかっていた。


口では緊張しないと言っても、心の中では緊張していた。



そしてついに、バースデー当日。


バルーンで装飾された店内。


ステージに鎮座するシャンパンタワー。


ユカはオープンしてすぐに来店した。


結局、ユカ以外の客は来なかった。


当日なってみると、昨日までの緊張がどこへいったのか、俺はもう吹っ切れていた。


というか、今さら焦っても仕方ない。


焦っても何も変わらない。


それはわかっていた。


そんなことよりも、このイベントを全力で楽しもうと思った。


来てくれてるユカのためではなかった。


自分のためだった。


俺が作ったオリジナルシャンパンもちらほら出始めた。


系列店からくるホストもいた。


嬉しかった。


店の混み具合で言ったら、忙しいという程ではなかった。


しかし、今日はシャンパンタワーがある。


それだけで精神的に楽だった。


シャンパンタワーと言うが、ユカは酒に弱く、シャンパンは飲めない。


そのため、値段は変わらず、缶チューハイでタワーをすることになっていた。


そんな缶チューハイタワーが始まった。
















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