ミユ④
新規の客は年齢確認のため、顔つきの身分証が必要になる。
ない人は入れない。
近頃はホストでも未成年飲酒に関してとても厳しい。
夜職の取り締まりに関しては東京の歌舞伎町が1番厳しい。
しかし、未成年の取り締まりに関しては大阪はより厳しい。
うちのグループは未成年は従業員でもアルコールを飲むことは出来ない。
警察に知り合いがいて、内部情報が入ってくる訳ではない。
ホストをやっていると、自然にガサ入れ情報が回ってくることがある。
あそこのホストクラブに警察が入った、あのガールズバーが摘発された、などなど。
とにかく、新規の客の身分証確認は必須だった。
そんな情勢にも関わらず、ミユの友達は明らかに20歳を越える見た目で、身分証いらずで来店した。
名前をトクちゃんといった。
フルネームは知らない。
それが名前をもじったニックネームなのか、略しただけなのかもわからない。
トクちゃんは小学生が履くようなどこのメーカーかわからないスニーカーに、無地のパーカーを着て、TOMMYの斜めがけのカバンを持っていた。
パット見の印象は男子中学生のようだったが、顔は35歳くらいに思えた。
実際は20代だった。
席に着いて簡単に新規の説明をした。
うちの店では新規の客が来たら内勤がシステムを説明する。
ただ、友達を連れてきたこの場合、俺がシステムを説明をする。
キャバクラ等と違い、ホストクラブは内勤の数が少ない。
なのでホストは内勤業務をある程度手伝う。
雑務や裏方の仕事を全部を内勤に任せてたら店が回らない。
自己紹介をしてからトクちゃんに説明をした。
初回の料金説明、飲み放題のメニュー、指名をした場合どうなるかなど。
ミユ同様、ホストによく行ってる雰囲気はなかったので、細かく説明した。
むしろトクちゃんホスト初めてかな、といった感じだった。
トクちゃんはあまりリアクションはなく、自分から喋るような人ではなかった。
ホストたちが回ってくる。
最初に名刺を渡し、自己紹介をする。
基本的に売れてる順に来る。
俺が働いてた店で一番偉い、店長からだった。
店長は喋りがうまい訳ではないが、カリスマ性、オーラなど飛び抜けてる。
「店長やってます、よろしくお願いします!」
「…」
トクちゃんはなにも反応もなかった。
その後も色々なホストが回ってきたが、どのホストにも無反応だった。
全員が回り終わり、特に楽しそうな感じもなかった。
あんまり趣旨を理解してないのかな。
そう思ったが、一応誰を指名するか聞かないといけない。
新人でも指名すんのかな?
「この人」
俺に出したのは店長の名刺だった。
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