ミユ③

爆音、照明、スモーク。


シャンパンコール中はパチンコ屋よりうるさい。


パチンコをしないが、パチンコ屋の中に入ったことはある。


顔を近づけて話さないと、隣の人でも何を言ってるかわからないくらいだ。


嬉しかった。


ホストやってから一番嬉しかった。


その日のミユは、シャンパンおろしたらすぐに帰った。


「子どもいるから今日はあんまり遅くまでは無理だ~」


その日の営業は前半が暇だったため、俺はそのまま中間ソングを歌った。


その日の前半時点で一番売上があるホストが歌える中間ソング。


その日一日の売上が1番のホストが歌えるラストソング。


どちらも歌ったことはなかった。


関ジャニ∞の歌だった。


俺はあんまり歌を知らない。


「初めての中間ソングありがとです!ラストソングも歌います!」


「イケイケー!」


周りが盛り上げてくれた。


調子に乗って言ったは良いが、客の予定はもうない。


とりあえず「イキっておく」のもホストの仕事のうちだ。


この煽りで他の客の単価が上がるかもしれない。


俺みたいな新人の煽りがどこまで効果的かはわからない。


その日はミユ以外の客はおらず、営業は終わった。


ラストソングはカナデだった。


営業終了後カナデにお礼を言いに行った。


「カナデさん、今日はシャンパン煽ってもらってありがとうございます!」


「おーシャンパンおめでと!いやいやゲンキが頑張ってるからね!そのまま努力続けて頑張ってな~」


「ありがとうございます!」


その日もキャッチに出た。


いつもいつもミユみたいに見つかる訳でもなかった。


この日はあまり成果出ず、人もいなかったので寮に帰った。


シオンがまだ起きてた。


「ゲンキしゃん初シャンパンおめでとう!」


「ありがと~」


「俺もがんばる!」


ライバルというものは時に、自分を高めるための大切な存在ともなる。


もちろん、自分を潰す存在にもなりかねない。


特にホストの世界では同じ店舗に良いライバルがいると、売上は上げやすい。


「こいつに負けたくない」


「あいつには勝ちたい」


「あと○○万円で売上勝てそう」


ネタにしやすく、女の子に煽りやすい。


シオンとはまさにそういう関係になりそうだった。


寮に帰ってからミユにLINEを送った。


「今日シャンパンありがと。初めてだったし尚更嬉しかった」


返事はその日には来なかった。


子どももいるしそんなもんだろう。


俺はスグに寝た。




起きてスマホを見るとミユからの返信があった。


「今日友達連れてってもいい?」


「もちろん!」


通ってる客が連れてきた新規の客を「枝」という。


初めての自分の枝なのでちょいテンションが上がった。


頻繁に来てくれる人も初めてだった。


店舗の掃除がいつもより楽しかった。


オープンしてちょっと経ってからミユとその友達が来店した。






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