ミユ②

ミユが入り口から遠くの奥の席に一人で座っていた。


「あれ、あんなお客さんいた?ゲンキ指名?」


「昨日キャッチして系列店に行ってました!」


「すごい!頑張ってるやん!後でヘルプ着くよ~」


「ありがとうございます!」


カナデに褒められた。


俺は少し照れ笑いをしながら、ミユの席に着いた。


「びっくりした~おはよー!」


「驚かせようと思って!」


ミユはまったく表情を変えなかった。


ミユは正直話をしててもまったく面白くない。


確かに俺の喋りのレベルが悪いというのもあるかもしれない。


にしても、コミュ障と言われるレベルでもない。


2人きりだと話が続かず困るので、ヘルプに頼っていた。


マキオに誰かヘルプ欲しいと伝えた。


するとすぐにカナデさんが着いてくれた。


「どうもカナデです!お願いします!」


この状況は初めてだった。


いつもはカナデのお客さんのヘルプをする立場だ。


そこから5分くらいすると「ゲンキリスト」と呼ばれた。


あれ、なんでやろ。


自分指名のお客さんがいるとあまり呼ばれることはないのだが。


「ぼく呼ばれました?」


「カナデが探りたいってー」


マキオは客の方を見ながらそう答えた。


ホストは情報戦。


カナデが前に言ってたことがある。


客を喜ばせるというのは大前提だ。


しかし、客がどういう人間かを知らないと喜ばせることは不可能である。


そのため、出会って間もない、指名されて間もない時期は客がどういった人間か調べる必要がある。


しかし、俺には探る能力はない。


経験もない。


それをカナデがやってくれている。


お手本を見せるかのように。


「ゲンキバック」


俺は裏のキッチンに呼ばれた。


カナデがいた。


「あの子シャンパンおろしてくれるってよ~。リステル」


「え、本当に!?ありがとうございます!」


リステルは店にあるシャンパンの中でも一番安い。


2万円だった。


十分嬉しかった。


初めてのシャンパン。


「どんな子でした?」


「あの子けっこうホスト行ってるね~。見た目がどうこうとか置いといて悪くないと思うよ。頑張って!」


ありがたい。


ホストはずっと個人プレー。


それは違う。


こういった連携プレーが必要な時もある。


ホストを知らない人からよく聞かれる。


「いじめとかあるの?」


従業員からのイジメのようなものは一切ない。


パワハラやら虐待がすぐ問題になるこの時代。


従業員は店から大切にされる。


店が良かったのかも知れない。


ミユの席に戻って少ししたら店が暗くなり、何人かステージに呼ばれた。


人生初の自分の為のシャンパンコールが始まった。




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