売れないホスト物語

ミユ①

ミユは子どもがいるらしい。

小学5年生の男の子。

結婚はしてるのかどうかは聞かなかった。

そんなことどうでもいい。

むしろ、旦那や彼氏の有無は客側から言わない限り、聞かない方が無難である。

1000円のセット料金と1000円の指名料の合計2000円をおごった。

金がないので痛かったが、これもしょうがない。

むしろ2部の系列店に初めて行けたので、それも嬉しかった。

2部の一番偉いホストは、ヒカリ。

パーマをかけた金髪で、ひげを生やしていた。

見た目はホストというよりチンピラみたいな感じだったが、優しかった。

「初めまして、ゲンキっていいます！」

「あー名前は聞いたことある！よろしく！」

系列店に行く時はちゃんと挨拶するように、と研修で言われていた。

ミユとはたわいもない話をした。

客と喋るというよりは、年齢的にも友達のお母さんと話すような感覚だった。

最初は色々と敬語で話していたが、途中からミユに言われ敬語を辞めた。

日本語というのは本当にメンドクサイ。

敬語なんて文化ほんとに廃れて欲しい。

かといって、馴れ馴れしく最初から敬語タメ語だと怒る人間もいる。

「ホストよく行くの？」

「たまにかな～」

この時すぐ嘘だとわかった。

人間はよく嘘をつく。

最近、嘘をついてるのかどうか、なんとなくわかるようになってきた。

嘘だとしてもどうでもいい。

この日、ミユは延長せず1セットで終わり、ミユは帰った。

ミユが帰ってすぐに俺も帰った。

帰りがけにLINEを聞いといたのでお礼だけ送っておいた。

「今日遅い時間やったのにありがとー！気を付けてな帰り道！」

二度と来ないだろうけど系列店に来てくれたのラッキー。

くらいな気持ちだった。

すぐ返信がきた。

疲れていたので返信せず、寮に帰って寝た。

「おーゲンキおはよ！昨日系列店いってたらしいな！頑張ってるやん！」

店に入った途端、セラに声をかけられた。

「なんで知ってるんですか？」

「ヒカリさんとしょっちゅうLINEしてるからな！ギャハハ」

相変わらずよく笑う。

入店してすぐに系列店に行ったのと、礼儀正しいのが印象的だったらしく、ヒカリは褒めてくれてたらしい。

それだけで、と疑問に思ったが、自己紹介すら出来ないやつもよくいるのがホストの世界だ。

「この調子で頑張ってな！」

「はい！ありがとうございます！」

掃除が終わり、店はオープンした。

マキオがマイクでキャッチに出たい人と呼び掛けた。

参戦しようとした途端「ゲンキブース」と呼ばれた。

フロアに向かったら、ミユが来店していた。