サキ②

嬉しかった。


サキから指名がもらえた。


というか客から初めて指名をもらえた。


ホストをやってから初めて他人から認められ、初めて他人から必要とされた。


初めてこの店にいる意味を見いだすことが出来た気がした。


そんな気持ちだった。


口にはせず、心の中で思っていた。


「ありがと!なんで!?」


テンションはずっと上がっていた。


「おもしろかった~」


サキの声を初めてちゃんと聞いたような気がする。


そのくらい喋らない。


人見知りってのは大変だ。


そこからミナコも含めて3人で色々と話した。


あれ、そういえばミナコは誰を指名???


そう思ってたら指名したホストがきた。


「ありがと~!」


カナデだった。


カナデとニコイチ。


心の中では嬉しかった。


関西では、2人1組でホストにくる女達のことをニコイチと言う。


関東ではアイバンとか言ったりする。


このニコイチから指名を受けてるホスト達がうまく連携を取れば、女達の来店に繋がったりする。


女はつるむのが本当に好きだ。


ここから少しだけ4人で喋ってた。


カナデと同じテーブルで、緊張していた俺。


「カナデリスト、カナデリスト」


カナデはすぐ席を外れた。


俺みたいな売れてないやつは、指名を受けてる席が1つでもあればリストされることはない。


しかし、カナデのように売れてる人はすぐ呼ばれたりする。


他にもいくつか客から指名を受けてるからだ。


俺は他の客などいなく、回らなければならないヘルプの席もないので、そんなに呼ばれることもない。


しかし、ある程度経ってから呼ばれた。


「ゲンキリスト、ゲンキリスト」


先輩にヘルプを任せて席を離れた。


「中だるみしてまうし、1席くらいヘルプ回ろうか」


なんで呼ばれたという府に落ちない顔を察してか、マキオが説明するかのように言った。


なるほど。


反論する気も無かったが、妙に納得した。


次に着いたヘルプの席は、あまり知らない客だったが楽しかった。


なにしろ、自分の客がいる状態のヘルプというのは精神的な余裕が出てくる。


「一度客が出来ると良いループになる。逆に出来ないと負のループになる。」


カナデに言われたことがある。


こういうことだったのか。


「ゲンキリスト」


いつも苦痛だったヘルプが、一瞬に思えた。


すぐ外れてサキの席に戻った。


「やっほ~」


サキはニコニコしつつ、口を動かすことなく、どこかを見てた。


相変わらず人見知り発揮してる。


もうそろそろ1セットが終わる。


1セットは俺らの店では90分であり、 もっといるには延長料金を払い、延長しなければならない。


初回なのでプラス1000円。


「そろそろ行こっか」


財布を開きながらミナコは言った。


会計が終わりサキ達は帰った。


楽しい時間というのは一瞬だ。















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る