サキ①
サキはおっとりしてて、黒髪ストレートで長く、のほほんとした雰囲気の女の子だった。
歯並びはきれいではなく、ものすごく人見知りらしく、なかなか目を合わせなかった。
サキはミナコという幼なじみの女の子といた。
ミナコは日本人であるがハーフ顔で、サキとは違い、人見知りをせず、よく喋る女の子であった。
それについて聞いてはないが、海外行くのが好きそうだった。
「ホストどうですか?」
「ん~まあ時間あるしどうしようかな~」
ミナコが答えた。
「面白くなかったらおごるよ~」
ホストには大体初回料金というものがあり、通常の料金より遥かに安い。
そして、通常はないが初回のみ飲み放題がつく。
うちの店では鏡月、麦焼酎、芋焼酎とソフトドリンクが飲み放題だった。
それで90分1000円のみ。
指名したらもうプラス1000円となる。
それでも2000円である。
そのため面白くなかったら初回の1000円奢るからおいでよ、というやり方はよくやっていた。
もちろん自腹である。
その代わり「初回荒らし」といって初回の安い時だけを回るやつもいる。
まあどんな業種でもいるだろうが。
「まあ、ならいこっかな」
ミナコが答えた。
サキは黙ってうなずくだけだった。
こんだけあっさりキャッチ成功するのはなかなか稀である。
大体は無視され、話を聞いてくれても店に来てくれるまでにはならない。
俺はキャッチ成功にテンションが上がった。
新規の客を「初回」とホストの世界では呼ぶ。
通常その初回の客が来たら売れている順番に名刺を渡し、席に着く。
しかし、自分で呼んだ(キャッチをした)客であれば呼んだ人から席に着く。
そのため、サキとミナコの席には俺と一緒にキャッチに出てたユーダイが席に着く。
だいたい一人のお客さんに5分程話す。
席に着くなりいきなり
「鏡月ロックで飲んでいいすか~?」
俺に驚きつつも、サキは笑ってた。
自分で呼んだ客だけにテンションが上がってた。
自分で注いだ鏡月ロックを、一気に飲んだ。
当たり前だが濃すぎた。
その場で吹き出した。
「ブーーーーーー」
サキにはかからなかったが床はびしょびしょ。
サキもミナコもめちゃくちゃ笑ってた。
狙ったつもりではなかったが結果オーライ。
こういう接客は、めちゃ好かれるかめちゃ嫌われるかのどっちかだ。
だいたい嫌われる。
そこからたわいもない話をした。
話を聞くと住んでるのは名古屋で、今日は旅行で大阪に来ていた。
月に1,2回大阪に遊びに来るらしい。
5分はあっという間だった。
「チェンジで」
マキオが肩を叩きながら小声で言った。
2人組、3人組だと5分経ってから席を替える。
ミナコの方に移ってからもサキと喋ってた。
「ゲンキリスト、ゲンキリスト」
呼ばれた。
席を外れて少し休憩した後に、ヘルプに回った。
1時間程経った後、再び
「ゲンキリスト」
と呼ばれた。
いつもより呼ばれるの早いな、と思って戻ったら
「ゲンキ指名入ったよ。おめでとう。」
マキオは少し笑ってそう言った。
サキから指名をもらった。
これが俺のホスト人生初めての指名だった。
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