第29話 告白
[ごめんなさい。僕は精神科医なのに、ついみどりさんの前では一人の少年になってしまう]
古山先生は私よりも10才位年下だろうか。40過ぎの男性が少年に戻るのは、話す相手に母性を求めるからだろう。自分でも頬が赤くなるのが分かった。
[どうぞ。私は包帯でまだ目が見えないから、泣き顔になっても大丈夫です。小学生の時のように甘えて下さい]
10才で精神を壊した私は、誰かの役に立つことで自尊心を保って来たのだろう。今は古山先生のそばに寄り添いたいと思った。
[人間は弱いものですね。無力です。父が亡くなり、僕は母を守ろうとした。けれど幼すぎた。母は心の拠り所を宗教に求めた。信仰心は誰にでもあります。仏像やマリア像など像を崇拝する人がいたり、山や海など自然を崇拝する人もいる。また無神論者、科学を信頼する人。色んな考え方があっていいと思う。犬や猫は人間に餌をねだるだけで、信仰は持ってないですからね]
古山先生の話は難しくて分からなかったが、相づちを打つ。
[信仰は人に押し付けたらいけない。母から聖水をかけるように命じられた時、嫌で仕方なかった。僕はもしかしたらホワイトエレファントに嫉妬していたのかもしれない。僕より象牙で出来た像に頼る母さんを受け入れるには、幼すぎたのかもしれません。強制する母さんが嫌いでした。母さんもまた精神的に弱かった。叩かれた事もあります。聖水をかけない、ホワイトエレファントに頭を下げない僕を母さんは叩いた]
古山先生は少し感情的な話し方をした。私は腕を伸ばし、先生を探す。触れてあげたかった。
[僕は心の奥で母さんを憎んできました。癌で亡くなる数日前もホワイトエレファントにお願い事をしていたから。話すことも聞くことも歩く事すら出来ない像。その像を神格化する母さんの弱さを憎んできました]
先生が私の指に触れる。温もりが伝わって少し安心した。そして先生は私の手を握った。
[僕は母さんのような、みどりさんのような人達を助けたいと思い精神科医になることを目指しました。けれど、限界を感じたんです。人間の脳を理解することなど同じ人間には出来ないんです。鬱病、統合失調症、発達障害など病名をつける事は出来ても、根本的な治療は出来ない。無力です。ストレス、トラウマ、先天性など原因をわかった風にこじつけて多量の薬を出す。それを繰り返す医療の現場に辟易した。僕は無力です。精神科医も精神を患う今の時代に僕はもう希望を失った。脳の複雑な仕組みについてはもう神の領域かもしれないと諦めかけました。そんな時に母達の訪問がありました]
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