第28話 説明3

 [休みなく話をして大丈夫ですか?僕は精神科医だから、あなたのカウンセリングをすることは大切だと思っているけど、なんせ初めての体験だから、躊躇します]


 [初めての体験って何がですか?まさか先生もあの3人と話したんですか?]


 私はおそるおそる古山先生に聞く。先生の興奮した息使いからその時の様子を探ろうと懸命になった。


 [もちろん、母親に会えた事はとても嬉しかったですよ。でも一人ではなく、藤澤さんとミナさんも一緒だったんです。母親は詳しく事の説明をしてくれました。レースちゃんと病院の屋上で会ったのは、僕が小学生の時と聞きました。まあ、15才までレースちゃんの話はよくしていたから、母が何故自殺を思いとどまったかは知っていました。みどりさんも注文書を書いたから分かりますね。レースちゃんはあなたです。いつも同じ歌を歌っていました。僕は何の歌か聞いても教えてくれなかった。ただ、笑うだけで。僕はあなたの部屋に連れていかれて、よくゲームをしました。オセロやトランプなんだけど、みどりさんは強くて、僕はよく泣いたんですよ]


 気分のいい日には小学生とオセロやトランプをやった記憶はあった。が古山先生であったことは思い出せない。


 [あのすぐに泣く子供が先生だったなんて信じられないし、私、正直鈴子さんと話した記憶がないんです]


 また記憶がすっぽり抜けている。あの当時も強い薬に頼っていたからかもしれない。


 [みどりさん、私達親子はあなたに感謝しています。母は優しくて、働きもので僕の事を愛してくれました。あのホワイトエレファントという像を手にいれるまでは。それから、像に毎朝聖水をかけて拝むようになると別人になった。あの優しい母さんがっ]


 古山先生は泣いているのだろうか?鼻をすする音が微かに聞こえる。


 [先生、大丈夫ですか?私、今の泣く寸前の音であなたの事を思い出したんです。声が漏れないように唇を震わせてるでしょ。奥歯のギシリという音も覚えてる]


 [みどりさん、ありがとう。僕は変わってしまった母に怯えてあなたの懐でよく泣いた。あなたは僕の頭を撫でてくれましね。新興宗教にお金を搾取されて母は抜けました。けれどマインドコントロールからの脱却は難しい。一文無しになってもホワイトエレファントへの帰依は解けなかった。毎朝聖水をかけていました。大切にする事は悪くない。拝むことも悪くない]


 古山先生は自分の辛い過去を話し出す。どちらがカウンセリングを受けているのかわからなくなったが、私は静かに耳を傾けた。



 

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