第27話 説明2

 朝から気分がよくなっていた。いつものように包帯を取り換えられて、血圧、体温を測っていると、古山先生の声が聞こえた。


 [みどりさん、傷も毎日綺麗に治っていますね。もうしばらくの辛抱です]


 [ オーナーにお礼を言いたいのですが、連絡は取れませんか?]一番気にかかっていた事だった。


 [オーナーの方から落ち着いたら連絡して下さるそうですよ。ゆっくり待ちましょう]


 古山先生の指示に従い、今日も心のリハビリをするという事になった。手紙に対しても解せない部分がある。説明をしっかり聞く事が、私のこれからの第一歩になる。深呼吸をした。


 [ 続きからです。心の準備はいいですか?お母さんにに引き取られたあなたは、しばらく平和に生活を送っていました。しかし、お母さんが再婚しました。あなたが14才の時です。もちろん、覚えていますね。経済的にも大変だったのでしょう。やむを得ない事です]


 [母は確かに再婚しました。けど一緒には暮らしていません。私は施設で育ちました]


 私は施設で育ちました。私は施設で育ちました。ワタシハシセツデソダチマシタ。


 何度この台詞を吐いただろうか。14才からの記憶がすっぽりないのだ。高校受験も就職試験も覚えていない。なのにこの台詞は何度も練習させられたせいか、母の再婚という単語で自然に口から出るようになった。

 

 [そうです。あなたは施設で育ち、そこからこの病院に通っていました。残酷な事実です。あなたはいつもの精神科だけでなく、外科にも通いました。これ以上思い出したら危険なので言わない方がいい]


 古山先生はため息交じりにそういうと、これでやめる事も出来ると口を閉ざす。


 [先生、教えて下さい。何故ですか?]


 もう中途半端は嫌だった。死んだ人達と話をしたかもしれないのだ。その事実が私を大胆にさせる。もう怖いものはないはず。


 [お母さんの再婚相手から暴力を受けました。

アザが絶えなかった。お母さんはあなたを守るために、施設に入れました。みどりさん、いいですか、お母さんはあなたを守るために辛い選択をしたんです。捨てたわけではない]


 語尾を強くいい、古山先生は私の肩を抱いてくれた。


 [そんな時、あなたはミナさんと知り合いました。バス停でよく話をしたでしょう]


 ミナさん。ミナ。思い出せない。けれどよく話をするワンレンボディコンのお姉さんがバス停にいた気もする。


 [あの当時多かったジャパゆきさんです。みんな同じ顔に見えたから仕方がない。あなたはミナさんと会って話すと元気になれました。そうです、片言のミナさんはあなたに依存し、またあなたもミナさんに依存していた。精神のバランスを保つために、人は誰かの役に立ちたいと望むんです。共依存のミナさんが亡くなると、あなたの失望はひどかった。お母さんに捨てられた思い込みも手伝って、セルフネグレクトを始めました]


  [セルフネグレクトって何ですか?身に覚えがありません]


 [自分で自分を傷付ける行為です。腕も手首も脚も生傷がたえませんでした。カルテには事細かに記録されています。あなたは薬を大量に飲んだ事もあります。胃洗浄した日付と吐き出された薬の量が記入されている。僕はこれを見た時、あなたの生命力に驚きましたよ]


 まるで記憶喪失になった人だ。私は天真爛漫にずっとこの年まで生きてきたと思っていた。

いや、自分で思い込んでいたのかもしれない。


 ミナはおさげちゃんと呼んでいた私に感謝してくれたのだ。もう過去の闇の自分に戻る必要はない。少しずつ思い出せば、いい。


 [先生、あなたのお母さんとの事を話して下さい。あなたも関係していた過去ですよね]


 3人目の古山鈴子についての説明を求めた。

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