第18話 覚醒

 鈴子はやっと飲み物を口にして落ち着いた。


 [息子がね、レースちゃんになついてよく病室に二人で遊びに行ったわ。オセロゲームとかトランプで遊んでもらった。レースちゃんに出会って本当に良かった。息子を道連れに屋上から飛び下りてたもの。レースちゃんは命の恩人]


 鈴子はしみじみと語り出す。その時の気持ちを吐露しだした。私は淡々とメモをとる。


 [マインドコントロールは恐ろしいわね。ホワイトエレファントを一人でも多くの人に伝えるために、仕事を減らしたわ。救済は緊急だって教団の教えだったもの。自分の経済的な面はホワイトエレファントが、必ず顧みて下さるって信じて疑わなかった。実際、頑張っている人には信者仲間からの援助もあったの。玄関に野菜やお米が置いてあった。ホワイトエレファントのお陰だと、もっと頑張ったの。感謝を表すための誓約もしたのよ。毎月、100時間を教団の教えを広めるために使ったの]


 私は鈴子を哀れんでいる。


 [すぐに体を壊した。息子にも冷たく当たった。毎日の生活を支えて下さるホワイトエレファントに聖水をかけないから叩いた事もあったの。どっぷりはまった時にレースちゃんが私を覚醒させてくれたのよ]


 私は聞き慣れない覚醒という単語をカタカナで記している。


 [レースちゃんが言ったの。〘人間にはみんな信仰心ってあるんですよ。目に見えないものを信じる心の事です。それは人間という存在を超越した領域に思いを馳せる純粋な心の事です。

けれど、その信仰心を利用してお金儲けをする薄汚い人間がいるのも真実です。その為にマインドコントロールをするんです。〗って。私はただ、幸せになりたかったのにマインドコントロールされていたことに気がついたの]


 覚醒とはマインドコントロールが解けた状態なのかと納得しながらメモをとる。


 [だから、そのレースちゃんにこの象牙を印鑑にしてお礼をしたいの。オーナーに宜しくお願いしますと伝えて下さい]


 鈴子は深く頭を下げて、画面から消えた。

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