第15話 鈴子の注文書
3度めになると優れもののペンの速さに慣れた。 鈴子は話始める。
[レースちゃんはよく屋上で歌を歌って、ニコニコしていた。目が合うとあいさつしてくれた。ある日、自分の病棟に案内してくれて、病室に招いてくれたわ。私ねシングルマザーだったから、学校帰りの息子とよくレースちゃんの部屋に行ったわ] 懐かしそうに話を進める。
[主人が亡くなった時、息子はまだ3才だったから、預けて朝夕働いた。将来が不安で不安で仕方なかった。そんな時、宗教の勧誘があってね。だまされないって警戒してたの。でも苦労話を真剣に聞いて泣いてくれたの。私嬉しくて]
宗教じゃなくても人は弱いときに共感されると警戒心がとけてしまうだろう。
私も今、鈴子の話を親身に聞いている。話が終わればきっと私の事も信用する。
[それでね、集まりに誘われて1回だけ行ってみたの。モーニングミィーテイングって言うんだけど、今度は皆に歓迎されてうれしくてうれしくて]
宗教の集まりというワードですでに鈴子は入会したと私は確信した。労いや励ましを与えられたら、何度でも行くだろう。この先話を聞くことが怖くなった。
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