第13話 頭痛
翌朝、ミナの注文書を持って出勤する。
オーナーはすでにコーヒータイムの時間だ。
[みどりさん、昨日はいい仕事されました。
お疲れ様でした。ミナさんはよく働くいい娘さんでした]
オーナーはミナをほめ出したがよく知っているような口振りだ。
[予約の時に少し話しましたよ。おさげちゃんの事も教えてくれました]
私はその時に注文書を書けばいいのではないかと心の中で思った。
[ 電話でしたから。それにみどりさんに会いたがっていましたから]
どうして私に会いたかったのだろう。私 はミナなど知らない。ここに来るのは変な客 ばかりだ。話をスルーして掃除を始める。
[ おさげちゃんは誰に叩かれていたのでしょうまだ中学生の女の子が病院に通う なんて 可哀想です。それにミナさんとユキさんはあの後どうなったのでしょう]
個人情報の危機管理を忘れて色々オーナー に質問してしまう。プライバシーの侵害も何 もあったものじゃない。私は自分の口に手をあてモップをかける。
[おさげちゃんはリストカットの後も生々しく残っていたそうですよ。DVやネグレクトがあったのでしょう。おさげちゃんもミナさんの話に寄り添い相談相手になることで自尊心を保っていたのでしょうね]
セルフネグレクトは痛いのだろうか?タバコの火を自分に押しあてたりする人もいるそうだ。私には怖くてそんなこと無理だろう。ピアスも怖い。
[もしかして、ミナさんとユキさんだけでなく、おさげちゃんとミナさんはきっと共依存だったのかもせれませんね]
私は思い付いたように話した。
オーナーはモップをおいてソファに座るように言い、コーヒーを出してくれた。
[ 人は誰も一人では生きられません。親と子供夫婦、友達に依存し依存されて生きているんですよ。支え合うとか慈しむ、愛するといった光の言葉が闇に変わる時に共依存になると思うんです。バランスが崩れるんでしょう]
金八先生のような話が始まる。
私は手を洗い出されたコーヒーを頂く。そして、持論を話す。
[ 依存することは、その人の弱さでもずるさでもないと思います。アルコールや薬やギャンブルに依存すると治療しますから心の病なんだと思うんです]
オーナーは優しく頷きながら聞く。
[そうですね。仕事に依存してきた人のお陰で科学や医療の進歩があり、芸術が生まれたかもしれないからね。僕もこのリメイクする仕事に依存しているのかもしれない]
ダンディなオーナーがより紳士的にみえる。
と同時に頭がズキンとした。戦慄が走る。
一筋に流れる赤い血液。肌につうっと流れる赤。私は思わず自分の左手首を掴む。
私の手首には何の傷跡もないのに、おさげちゃんのリストカットの光景を見た気がした。
私は増してく頭痛に耐えきれなくて、いつもエプロンのポケットに常備している痛み止めを飲む。オーナーにきずかれないように、コーヒーで流し込んだ。
オーナーの水で飲みなさい。という言葉を聞く前に眠りに落ちた。
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