第9話 藤澤のリメイク
気がつくと朝だった。あれから寝てしまったのか、プリンの空き皿がある。食べたことも覚えていない。
顔を洗い、歯磨きして、簡単に化粧して注文書をファイルに入れて出勤する。
重たい扉を開けると、オーナーがすでにソファに腰掛け、くつろいでいる。
[おはようございます]オーナーがいつものようにニコリとした。
[私、注文書を書き直しました。というか不思議な事に清書されてたんです]
注文書をオーナーに見せる。オーナーは一気に読んで、眉をひそめた。
[このピンクちゃんの親はどんな気持ちだったのでしょう。自分の子供がヤクザに利用されたんですよ。藤澤にとったら、ピンクちゃんは宝のような存在かもしれない。刑務所に行かずにすんだんだから。ピンクちゃんはこの世の中に対して何が悪で何が善なのか戸惑いながら生きてるでしようね]
オーナーにも子供がいるのだろうか。ピンクちゃんの生き方を心配するオーナーの目に父親の優しさを感じた。
[ 確かにピンクちゃんは犯罪者の共犯にされたのですから、親としたら切なく怒りを覚えるでしようね。でも親は知らないと藤澤さんが言ってました。これは美談ですよ。一人のヤクザが8才の女の子との出会いで悔い改めたんです。それでピンクちゃんに感謝してお金を払ってリメイクするんですから]
オーナーは寂しそうな笑みを浮かべた。大切なお客様なのに、何の不服があるのだろうか。私なら、人生を変えた一言シリーズとしてこっそり応募してしまうだろう。ヤクザと呼ばれる人にも心はあるのだ。仁義とか忠節、任侠という言葉はあの人達からのものだ。
兄貴、親父、兄弟、舎弟とかなんとか、家族のように仲間思いの集まりだ。
[みどりさんは、純粋ですね。]オーナーは私の心を読んだのか微笑む。そして、唐突に話始めた。
[手鞠アジサイが見事に咲いてました。用水沿いです。上の群は雨に濡れ、下の群は用水路に浸かっていました。どちらも生きるためには水の恩恵を受けて咲く。土も太陽も同じです。
なのに、一週間もしないうちに、用水に浸かった花は枯れていくんです。藤澤さんの生き方も同じです。世間の泥水を吸い上げて咲く花の寿命は長くない]
オーナーの言いたい事も分かったが、私は藤澤を何故か批判も擁護もしなかった。
オーナーは三日月の所に藤澤のFをかけて2階にあがる。
[明日、また3時に予約があります。今日はお店を掃除しておいて下さい]
私はこんなゆるい仕事でお給料をもらっていいのだろうか。徹底的に綺麗にしようと掃除道具の場所を尋ねた。
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