第7話 来客1 ヤクザ
その客は3時ちょうどに来た。
私は注文書とペンを持ち、とびきりの営業スマイルで迎える。
[あんさん、ふけましたな]
40手前の細身の眼光鋭い男が、私を見て気持ち悪い笑みを浮かべた。スーパーなら要チェックしているだろう怪しい男だ。
[どうそ、こちらにおかけ下さい]
舌打ちしたいのを我慢してソファに招く。
男は一度座ったことのあるかのように、軽くうなずいて、ドカット座る。
[お名前からお願いします]
[藤澤雄三。38才。連絡先はここや]
藤澤と名乗る男は、私の顔にスマホを差し出す
住所と電話番号が待受画面にある。
私はそれを見て注文書に書き留める。
[この子かわいいやろ。今日来たのは、このランドセルのリメイクを頼みに来たちゅうわけや]
藤澤はそういうと、紙袋をドンとテーブルに置いた。
ランドセルのリメイク。どこかで聞いたことかある。子供の卒業と同時にミニチュアランドセルにしてとっておくらしい。
この人も、人の親なんだなと見た目からは想像できない優しさに感心した。
[ 財布と印鑑入れにして欲しい] 藤澤がランドセルを紙袋から取り出しながら言う。
私は、パソコンでランドセル、財布と検索し画像を示す。
[これや、イメージにピッタリや] 藤澤は画像の長財布を指さし、声をあげる。
藤澤が持参したランドセルは赤色だ。
6年間使ったのだろうか。光沢を帯びたままの深い赤だ。ポストでも夕日でもルビーでもない、真っ赤だ。
[綺麗なランドセルですね。昨日購入したばかりのようです]
私は、剥げても汚れてもいないランドセルに
少し違和感を感じ、もしかして直ぐに亡くなった子供のものだろうかと邪推した。
[これは、俺の娘のものじゃないで。俺の娘は清く正しく静かに暮らしとる。これをあげたいんは隣に住んでた子や。じゃ、話すで]
藤澤は私に注文書に自分の話を書き留めるように促した。私は慌てペンを握る。
気がつくと、藤澤がいない。
オーナーが二階から降りてきた。確かに藤澤に出した、飲みきったコーヒーカップがある。
[もう5時過ぎています。お疲れ様]
二時間私は何をしていたのだろうか。テーブルの上にはA4サイズにびっしり書かれた注文書がある。
みみずのはったような字だ。
[じゃ、注文書とリメイクする商品、パソコンからプリントアウトしたものをこのボックスに入れて下さい] オーナーに話しかけられて、はっと現実に戻された。
[すいません。たぶん、私の字が読めないと思うんです。明日までに書き直してきていいですか?]
[そのペンは優れものだから]と、オーナーはほほえんで承知してくれた。
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