第7話
「え、槇くんも猫を見たの?」
「そう。俺は自分の部屋だった」
私は溜息を付いた。いや、この流れでいくと次は自分の番だと期待しても良いのではないか。小春が一口ハーゲンダッツをくれた。やっぱりクッキーアンドクリームが好きだな、と抹茶味を口にして贅沢にも思う。
「何か特別なことした?」
「何も。昨日山本から聞いた猫の話を頭に思い浮かべて寝たくらい」
「そっかー」
私は意気消沈して席に戻る。二人が羨ましい。私もミーに会ってみたい。
体育で疲れたのか、念仏みたいにミーの名前を頭の中で唱えているとすぐに眠ることが出来た。
そこは見慣れない公園だった。ミーは現れないが、今のお父さんとお母さんが滑り台の傍に立っている。二人は今まさに滑り出そうとしている女の子を見つめているようだった。白い服を着た女の子の顔がよく見えない。私は気になって近付こうと一歩前に出て驚いた。現実と同じように思い通りに手足が動く。
私は思い切り走り出す。
そこで、突然目が覚めたのだ。なんとも惜しい事をした気がした。
学校でいつものように「だめだったー」と二人に報告して雑談していたが、小春が先生に呼ばれてどこかへ行ってしまった。槇くんと二人で話すのは初めてだったので緊張感が走ったのも束の間、彼は机の横に掛けてあった小さな紙袋を無造作に私へ差し出した。
「丁度安売りしてたの見つけたから。こないだ誕生日って言ってたし」
しかめっ面をした槇くんは目を逸らして言う。耳が赤い。驚いて何も言えずにいると、「トイレ」と言い残して行ってしまった。
私は急激に顔が熱くなるのがわかって教室から逃げ出した。紙袋を抱えて一人になれるところを探し、屋上に続く階段に座り込む。遠い喧騒を聞きながら中を確認してみると、丸い輪郭の白い陶器製のアロマポッドが入っていた。
私は足をじたばたと動かして紙袋を抱き締めた。男の子から貰った初めてのプレゼントだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。