第8話
今晩こそはと気合いを入れ、柑橘系の香りが漂う部屋で眠りに就く。しかし、昼間の事を思い出してなかなか寝付けず、夜中二時を回った頃にようやく夢の中に入ることが出来た。
いつもより鮮明な夢の舞台は高校の卒業式だった。来年の事なのにどこか懐かしい。みんな今より少しだけ大人っぽくて、小春のショートカットだった髪は肩で揃えられたボブになっている。彼女にはこちらの方が似合うと思った。校舎のあちこちで写真を取り合ったり、抱き締めたり、泣いたりしている合間を縫ってミーを探してうろうろと彷徨う。体育館にも、理科室にも、屋上にもどこにもミーは見つからない。そうだ、体育準備室を見ていないと再び体育館へ戻ろうとした時、ふと手を引かれた。私の手を引いたのは槇くんだった。槇くんは少し背が高くなって、肩幅が大きくなっていた。何か彼の口が動いていたけれど、音が聞こえない。そういえば夢の中で触れられたのも話し掛けられたのも初めてだった。そして、目の端に何か白い物が横切った。慌てて顔を向けたが視線の先には何もいなかった。
残念ながらそこで目が覚めた。時計を見ると、目覚ましが鳴る五分前だ。ミーを見逃したことよりも、槇くんの言葉を聞きのがしたことの方が悔しい自分がいた。
階下へ行くとお母さんに「耳まで赤いわよ。熱じゃないの?」と心配された。槇くんを見たらまた赤面してしまいそうで少し不安で、またさらに顔が熱くなる。
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