第3話

「昨日の猫の話、聞かせてくれない?」

 美波がいない時に小春に声を掛けた。お喋りするのが大好きな彼女は、小気味良い口調でこの不思議な猫の話をしてくれた。

 猫が夢に出て来るのは、うちの高校の生徒だけではないらしい。ネットで調べると、夢の中に出て来る猫の話が引っ掛かって来た。うちの学校では「シロ」って呼ばれているけれど、「マリー」「モモ」など色々な俗称があるようだ。

夢見る人間の年齢も性別も様々で、いつから現れ始めたのかもわからない。

「それでね、猫を見たら決して触ってはいけないの」

 悪戯っぽい笑みを浮かべて小春は人差し指を立てた。

「どうして?」

「まー、よくある話だけど、死んじゃうんだって。触った人間が。夢の中でも、現実でも」

 ガクン、と夢の中で落ちる感覚が伴う時がある。そこで目覚めなければ死んでしまうという有名な話を思い出した。

「そうやって印象付けることで、さらに夢に出やすくなるんだよ」

 と小春の席の後ろで日直の日誌を書いていた槇くんが話に割って入る。

「どういうこと?」

 私の問いに槇くんは鋭い目でこちらを見返した。

槇くんは人を真っ直ぐに見て強い口調で物を言う。クラスが同じになって二年、今となっては慣れたこの目付きも当初は正直怖かった。

「そんな特殊な猫の話聞いたら頭の中でイメージするだろ?さらに死んじゃうとか聞いたら余計頭に残る。そしたら聞いた奴の何人かの夢の中に出たっておかしくない。夢なんて脳味噌が作り上げるものなんだから」

「面白くない奴!」

 小春はそっぽを向いた。

「私、猫の夢見たいな。どうやったら確実に見れるのかな」

 槇くんは「ちょっと待って」と言いながらスマホを検索し出した。

「槇、あんたが今まさに調べてる情報もネットに落ちてるただの噂だからね」

「わかってるわ」

 そう言いながらも調べたことを読み上げてくれた。

「噂話の検証だ。本当に夢が見れるかどうか三人で試してみないか」

 槇くんは挑戦的に小春を睨み付けた。

「乗った」

 小春は負けじと睨み返して「最初に見た人間が勝ちだからね」と付け加えた。

「乗った」

 私も出遅れて名乗りを上げた。賭け物はハーゲンダッツ、自己申告制だから嘘は吐かない事を話し合っているうちにチャイムが鳴ったので、三人で今晩実践する事を約束して解散した。

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