第2話
私は小さい時、毎月第二木曜日に本当のお父さんに会うために児童相談所に行かなければならなかった。そこにいたのがミーなのだ。擦り寄って来るくせに、触れようとすると離れて行く。優雅な足取りで歩く、大好きだった気高い猫。極度の人見知りだった私にとって、ミーはあの時の唯一の友達だった。
いつの間にかお父さんとの面会はなくなり、わたしも養父母に付いて引っ越したためにミーのことはすっかり忘れていた。
どうにも懐かしくて会いに行きたくなったけれど、調べたら行くのに五時間かかるらしい。地図上では近く見えるのに。指三つ分しかない。その前に、だいぶ前の話だから既に死んじゃっているかもしれない。
ふと、みんなの夢に出て来たのは本物のミーなのではないかと思い浮かんだ。どこかで一人ぽっちで死んじゃって、寂しいから夢の中を渡り歩いているのではないだろうか。トテトテと暗い道を足音もさせずに心細げに歩くミーを想像したら涙が出た。
ミーだって私の事が好きだったでしょう。ミーだったら化けて出て来ても喜んで受け入れるのに。他の子の夢の中になんて出ないで私のところに来てくれたらいいじゃない。でも、ハートマークがある猫はミーでなくともテレビかネットで見たことがある。ちょっとでも退屈な毎日を楽しくしようと小春や他の子達が考えた作り話かもしれない。
ベッドに横たわって取り留めなく考えていたけれど、いつの間にか制服のまま眠りに落ちてしまった。
地面を踏みしめる感覚はなく、手足はふわふわと動いてなかなか言うことを聞いてはくれない。そこは昔住んでいた街の商店街の緑色のアーケード下のようだった。ところどころぼやけてはっきりとは見えない。それでも、ゴミ箱や店舗の隙間などを確認してミーを探した。見つかったのはミーではなくお父さんだった。お父さんはなんだかとても老けていて、隣には知らない女の人が寄り添って歩いていた。そして、お父さんの腕の中には赤ちゃんがいる。その丸々とした全然可愛くない子に愛しそうに微笑みかけてあやしていた。それは紛れもない家族の雰囲気だ。
目覚ましのけたたましい音で私は無理に現実へと引っ張られる。私は気だるげに起き上がり、頬に伝う涙を拭いた。雨の音がして肌寒い。また靴下や制服が濡れると思うと憂鬱だ。制服が水に濡れると変な匂いがする。私はあの匂いが嫌い。
急いでシャワーを浴びて、時間がないからと朝食にお握りを持たせてもらって登校した。
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