第11話 ミネアはとある話の真似をする


 グラナード王国の東側には、南北にまたがる巨大な山脈がそびえ立っている。

 その山脈の東側はコモーン地方と呼ばれ、王国の一部ではあるが関税等も発生する半ば自治区になっていた。

 首都のカロを含め領土の大半を荒野が占める西側と違い、背の高い山脈によって雲の流れが止まることにより雨が多いため、コモーン地方には緑が一面の肥沃な大地が広がっている。


 この地では水耕栽培が盛んに行われており、この時期は水をたっぷりたたえた水田が青々と光っている。


 山脈に分断されたコモーン地方と首都カロを結ぶのは、山脈の途切れた南側から海沿いを迂回するように通る街道である。

 だが南にある首都から遠く離れたグラナード王国の北側では、南の迂回ルートまで向かわず、あえて最短距離で山脈を突っ切る方法もあり、東西に延びた峠道がいくつか存在していた。


 そんな峠道の一つにある小さな茶屋で、今年十歳になる少年、ユーシリアスは父親とともに、店を切り盛りしていた。


 

「ごちそうさん。それじゃ、そろそろ行くか」

「ありがとうございました! ジンさん、気をつけて行ってらっしゃい」

「おう。ユウ坊も元気でな」

「はいっ、ジンさんも」


 ユーシリアスは表に出て、顔見知りの商人を見送った。

 その姿が見えなくなってから、店の中に戻る。

 今の時間は客足も途絶えており、客の姿はない。

 店内を片づけてから、店の奥にいる男性に声をかけた。


「おとーさん。僕、店の外の掃除をしてくるね」

「……あぁ」

 無愛想に答えたのは、ユーシリアスの父、オーダムである。

 ユーシリアスには母親も兄弟もいない。父のオーダムと二人で、峠の茶屋を切り盛りして生活していた。

 いくつもある東西に延びる峠道の中でも、一番北に位置するこの峠は、抜けた先の西側が、ほぼ荒野だらけということもあって、人の流れはそれほど多くはない。それでも、この近くに同業の店がないこともあって、男二人が生活できるくらいは繁盛していた。


 ユーシリアスがほうきを持って店の前を掃除していると、峠道の先から、聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。


「よいしょ。よいしょ」

 声の先に目を向けると予想通り、登山には不似合いなひらひらとした服を身に纏った小柄な女性が杖を手にしながら、こちらに向かってきているところだった。


「あ、ミネアさん」

「お久しぶりです」


 ミネアと呼ばれた女性は手にした杖に寄りかかりながら、あいさつした。

 見た目の年齢は十五歳前後で、少女と称した方が正しいかもしれないが、十歳のユーシリアスにとっては、年上のお姉さんである。

 やや儚げで華奢で小柄ながらも、整った美貌の持ち主で、年の近い女性が周りにいないユーシリアスにとって、少しドギマギする相手でもあった。

 ミネアが、よいしょと表にある椅子に腰かける。


「いつものお茶と三色団子をいただけますか」

「はい。ありがとうございますっ」

 元気よく返事して、ユーシリアスは奥に引っ込んだ。



 ひと月ほど前、峠の道を逸れて迷っているミネアをたまたまユーシリアスが見つけて、茶屋に連れてきたのがきっかけだった。

 それ以来、彼女は店の常連となっていた。

 ちなみに、ほぼ一本道をどうやって迷っていたのかは、謎である。


 峠とは本来越えていくものなのに、彼女は西側から上ってきて、また西側へと帰っていく。それも女性の細足で来るのだから、いろいろな客を見てきたユーシリアスにとっても、不思議な人だった。


「ここの景色は良いですね。何気ない風景を見て楽しめるような心にゆとりを持った生活を送るように、と言われていたことを思い出して、最近ちょくちょく遠出をするようになりましたが、団子とお茶を飲みながら眺めるここの風景は最高なのです」


 ミネアが東側に目を向ける。

 峠の木々の隙間から、平野一帯に広がる水田が見える。

 毎日見ているユーシリアスでも綺麗だなと思うくらいだから、西の人はもっとすごいのだろう。


「水田の奥でキラキラ光っているのは、アルモルネの花ですね。水の豊富な湿地に咲く花で七色に光り、お洋服や食べ物の着色料としても重宝されているのですよ」

「へぇ」


 峠で生まれ育ったユーシリアスにとって、ミネアの話は新鮮で聞いていて楽しかった。


「ミネアさんは、西側の人ですよね。西側にはあの花は咲いてないんですか?」

「はい。この地方特有のものなのです。同じ条件を整えてもほかの地方では育たないようです」

「じゃあ、西の人に持って行って売ったら、もうかるかな」


 商人的発想である。

 すると突然、老人のような声が混ざってきた。


「うむ。よい発想じゃな少年」

「……え?」


 今の声は、もちろんミネアではない。しかし彼女の方から聞こえた。

 ユーシリアスは彼女の隣に視線を移した。そこにあるのは彼女が持っていた一本の杖。


「そうじゃ。わしだよ、少年」

「つ、杖が喋ったっ」

「格さんなのです」


 驚くユーシリアスとは対照的に、ミネアがのほほんと言った。


「もともと、とある谷に生えていた一本樹だったのですが、枯れかけていたので引き取って、杖として再利用したのです」

「ほっほっほ。地に生えていたときはいつも同じ景色だったからのぉ。こうして動き回れるのも良いものじゃ。この娘はちぃと人使いが荒いがの」

「人使いではなく、杖使い、なのです」

「ほっほっほ」


 ユーシリアスは呆気にとられて二人?のやりとりを眺めた。

 よくわからないけど、魔法というものだろうか。


「もしかして、ミネアさんはすごい人なの?」

「いえいえ。私はただのミネアなのです」

 ミネアは答えになっていない答えを口にして微笑んだ。

 

「ちなみに着色に使う、アルモルネの花を煎じた粉は、コモーン地方の重要な産業のため、許可なく販売したら罰せられてしまうのですよ」

「へぇ。そうなんだ」

「それでは。お団子、ごちそうさまでした」

「はい。ありがとうございます」


 ミネアは杖に寄りかかるようにしながら、器用に坂道を降りていった。

 相変わらず不思議な人だなぁと、その姿を見送ってから、ユーシリアスは仕事に戻った。



  ☆☆☆



 峠町から見上げる夜空は綺麗だと、よく茶屋に寄る旅人から聞いている。

 ユーシリアスは峠からの夜空しか見たことないが、確かに綺麗だと思う。


 そんな夜中にふとユーシリアスは目を覚ました。

 真夏は虫の声でうるさいが、今はそれもなく静かである。

 だが、そんな中物音がしたのだ。


「あれ、お店のほう?」

 茶屋と隣接する建物で、ユーシリアスは寝ている。

 本来、店にはこの時間、誰もいないはずである。

 不審に思ったユーシリアスは、そっとベッドから抜け出して、店の方に向かった。

 店には明かりがついていた。

 後ろ姿だったが、父親のオーダムの姿が見えた。


「……お父さん?」

 父親か誰かと話しているようだった。

 声からして相手は男性。数人いるようだ。何を話しているかは分からないけれど、あまりいい雰囲気ではなさそうだ。

 何となくひっそりと息を潜めていると、しばらくして男たちは店を出ていった。

 ユーシリアスもこっそりと寝床に戻ろうとしたが、タイミングを逸してしまい、出てきた父親と鉢合わせしてしまった。


「あ、お父さん……」

「ユーシリアス……起きていたのか」

「うん。今の人たちは……」

「お前が気にすることはない」

「……うん」

「い、いや、別に責めた訳じゃないんだ」


 オーダムはあわてた様子を見せた後、話題を変えるように言った。


「ところで、最近変わった娘さんが来ているようだが」

「ミネアさんのこと? うん、おもしろい人だよ」

「そうか……もしかすると彼女は……」

「ん? ミネアさんがどうしたの」

「いや、何でもない。さぁ明日も早いんだから、もう寝るぞ」

「う、うん」


 ユーシリアスは素直に寝床に戻りつつも、どこか釈然としないものを感じていた。



  ☆☆☆



「ユーシリアスさん、おはようございます」

「あ、ミネアさん」

 一日挟んだ翌日も、ミネアはやってきた。

 相変わらず登山に不似合いな格好をしているけれど、今日はいつもと違い肩に長いカラフルな布を掛けていた。

 気になったので聞いてみた。


「あの、それは?」

「助さんなのです」

 ミネアがそう言うと、まるで意思を持っているかのように、カラフルな布がふわふわと宙に浮かんだ。


「透けないけど、助さんなのです」

「よ、少年。今日も元気に働いているな。人生何があるか分からないから、頑張れよ! 俺だって、今ではこうやって、美少女の身体に触れ放題だからな」

「透けないけど、スケベな、ストールな助さんなのです」


 山の上の気候が寒いのか、ふわふわ浮かぶ布を引っ張って身体に巻き付けながら、ミネアが言った。


「はぁ」

 相変わらず変わった人である。

 ちなみに、ちょっと強引だと思ったことは口にしなかった。


「ところで、最近お店で何かトラブルみたいなものはありませんでしたか?」

「え? トラブル、ですか。ないですけど、どうして……」

「いえ。少し気になりまして」


 ミネアが茶屋の右正面にある林にちらりと目をやった。

 ユーシリアスもそちらの方に目をやる。いつも通りのただの林だけれど、一瞬だけ、ざわめいたような気もした。


「念のためですが、なるべく一人で行動しない方がいいですよ」

「はい……」

 何となく不気味に感じたので、ユーシリアスは素直にうなずいた。



  ☆☆☆



 翌日、朝早く。

 ユーシリアスは峠を少し下って、近くの河原に来ていた。

 井戸もあるけれど、この川でくむ水は澄んでいてお茶との相性がいいので、一日分は毎朝取ってくるようにしている。

 魔法で水を作り出すこともできるらしいが、魔力がある人なんてほんのひとかけら。しかも人によってはコップ一杯の水を生み出す間に、ご飯が炊けてしまうくらい時間が掛かってしまうこともあるらしい。それで汗もだらだら流していたら、なんの意味もないと思う。


「ふぅ」

 ユーシリアスは川辺で一息ついた。

 昔は父親と一緒に来ていたが、最近は自分の仕事だ。

 あと一往復。そろそろ出発しようかというときだった。


「朝から頑張ってるねー」


 突然背後から声を掛けられた。

 体格のしっかりした大人の男だった。

 普段誰もいない河原にいることでも不自然なのに、不気味な猫なで声を掛けながら近づいてくる。

 ユーシリアスは不審に感じ、おびえながら距離をとろうと後ずさる。


「おびえることはない。俺たちはお前の親父さんと昔からの知り合いなんだ」

「お父さんの?」

「ちょっとキミに、協力してほしいんだけどねー」


 にやにやと笑いながら、男が言う。

 それと同時に、河原沿いの木々の間から、次々と似たような風貌の男たちが姿を現す。

 やばいと感じて、ユーシリアスは背を向けて一気に逃げ出そうとした。

 だがその瞬間、背後から太い腕に身体を捕まった。水が入っていたバケツが河原に落ちて、音を立てる。

 声を出そうとする前に大きく太い手のひらで口を塞がれてしまう。

 そのまま呼吸をふさがれ、ユーシリアスの意識は途絶えた。



「よし。そいつはアジトへ連れて行け。大切な人質だから、くれぐれも逃がすなよ」

 ユーシリアスに声をかけた男が、周りの男たちに命令する。


「それから、誰かこのことをオーダムの奴に伝えてこい。かわいい息子の命が惜しかったら、素直に言うことを聞け、とな」

 がははは、と男が空を見て笑い声をあげた。


 だがその空に、風もないのにひらひらと細い布が待っていたことに気づくことはなかった。



  ☆☆☆



 どれくらい時が経ったのか。

 ユーシリアスが目を覚ましたのは、見知らぬ小屋の中だった。

 確か自分は水くみに行っているときに、男たちに捕まって……とこれまでの出来事を思い出そうとしていると、似たような風貌の男が姿を見せた。


「お、ちょうど起きたか。ほら、お父さんのお出ましだぞ」

「え?」


 訳が分からないまま、ユーシリアスは強引に起こされ、後ろ手を捕まれたまま外に出させられる。

 山の中のちょっとした広場には、普段見かけないほど、たくさんの男で埋まっており、その向かいに、オーダムの姿があった。

 男たちは今にも飛びかからんばかりに、オーダムを囲んでいる。


「お父さんっ!」

「ニジー! ユーシリアスは関係ない! すぐに放せ!」

「関係なくても、おまえの判断次第で関係あるんだよ。急に協力しないなんて言い出すからなぁ。大したことないだろ。今まで通り見て見ぬふりをして、場所を貸してくれるだけでいいんだよ。お前の店なら、饅頭の材料として、アレがあっても問題ないからな。最近、監視が厳しくてな」

「断る。これ以上、悪事に協力できるかっ」

「ほう。昔のよしみで優しく提案してやったんだがな。仕方ない。少し痛い目にあってもらうか」


 周りの男が一斉に武器を構える。

 痛い目どころか、下手したら殺されかねない状況だ。

 何とかしないと……とユーシリアスが感じたとき。


「うぉっ、な、なんだ、これ」

 ユーシリアスを捕らえている男の顔に、風で舞ってきた布が巻き付いたのだ。

 一瞬拘束が緩む。

 その隙をついて、ユーシリアスは男の手から逃れ、オーダムの元に駆け寄る。


「お父さんっ」

「ユーシリアス、すまない。無事か」

 オーダムがユーシリアスを抱き留め、守るように前に立つ。


「ちっ、逃がしたか。まぁいい。いくら腕が立つからといって、ガキを守りながらこれだけの人数を相手できるかな」


 ニジーがさっと手をあげる。

 それを合図に、周りの男たちがじりじりと間を詰めてくる。

 オーダムが唇を噛む。


「あらあら。なにやら大変なことになっていますねぇ。私としては、峠のおいしいお茶とお団子が食べられなくなってしまうのは、一大事なのですが」


 不意にのほほんとした声が割り込んできた。

 緊迫した状況にあまりに不釣り合いだったため、声が大きくなくてもその場一帯に響きわたり、皆が動きを止めてしまった。


「ミネアさん!」

 声の主にいち早く気づいたのはユーシリアスだった。


 その叫びに呼応するかのように、どこからともなく、こんこんと杖を突きながら、明らかに場違いな少女がひょろりと現れた。

 先ほどのユーシリアスを捕らえていた男の顔に当たっていた細い布が、ふわりと彼女の肩に掛かっている。


「はぁん? てめぇが、オーダムが言っていた、最近ちょくちょく顔を出している女か。どこかの密偵かもしれないって思っていたが、探す手間が省けたぜ。ここでちょっと痛い目に遭ってもらうぜ。――おい、まずはその女を捕らえろ!」


 ニジーは、にやりと笑うと、周りの男たちに命令した。


「仕方ありませんね……」

 ミネアはおっとりと言った。


「――格さん、助さん。やっておしまい!」


 その声を合図に、ミネアの手から杖が離れると、勝手にくるくると回って、逆に男たちへと襲いかかった。


「な、なんだと」

 武器を持ったものと剣戟するのは慣れているだろうが、武器自体が武器のみで動く相手と切り合った経験などないのだろう。

 男たちが戸惑いつつ、勝手がわからず次々と倒されていく。


「女だ! 女を狙えっ」


 ニジーが指示を出す。

 何人かの男がミネアに迫る。

 ミネアは落ち着いた様子で、肩に掛かっているストールを放り投げた。


「そんな目くらまし――」

「へっへっへ。悪いなてめーら。実は俺……両刀なんだよ。ひゃっっはぁぁ」

「ぎゃっ、ぎゃぁぁっっ!」


 カラフルな布が意志を持ったかのように飛び回り、男たちの股間に巻き付いては次々に悶絶させていく。


「な、なんなんだ、こいつら……」


 意外な抵抗にニジーはうろたえる。

 ミネアの前には、杖や布にやられた部下たちが何人も地に触れ伏している。

 だが未だに多数の部下がおり、様子をうかがっている状態だ。

 いつでも号令一つで襲い掛かることはできる。


「格さん、助さん、もういいでしょう」

 ミネアが視線を杖に向ける。

 杖はすぅっと移動して、ミネアの前に立った。


「控え控え控えるのだ。ここにいるお方をどなたと心得るっ?」

 杖(格さん)が、大音量の声を上げた。


「恐れを多くも、グラナード王国の秘境、北の谷に居を構える『北の谷の魔女』ミリアさまにあらせられるぞっ」


「ふん。なに、はったり言いやがって」

 ニジーは歯牙にもかけず、あざ笑った。


「北の魔女っていうのはな、その恐怖の名に似合わず、華奢な少女の姿で――」

 目の前でひょうひょうしている女は華奢な少女だった。

 ごほんと、小さな咳払いをして、ニジーは続ける。


「変なピンク色の球体を引き連れていて――」

「あら。帰りは大変だからと、呼んでいたギャギャバーがもう来ちゃいました」

 ふわふわと少女の頭の上に、巨大なピンク色の物体が姿を見せた。


「と、とんでもない魔法を使って」

「それではさっさと終わらせてしまいましょう」

 少女がさっと左手を伸ばす。

 途端、強烈な突風が吹き荒れて、前にいた手下たちが全員吹っ飛んだ。


「…………」

 ニジーはそれを見て固まると、杖と布と少女に向き直って――


「すみませんでした、北の魔女様!」

 土下座した。



  ☆☆☆



「本当にこれでよろしかったのですか?」

「はい。私は事件の解決や犯人の確保までは言われてないのです。調査をするだけなのです。ですので、何もなかったと報告すれば良いだけです」


 オーダムの問いかけに、ミリアはひょうひょうと答えた。

 ニジーたち一味は、もう二度とオーダムたちに関わらないことと、今までの悪事を止めるようきつく言いつけて解放していた。

 しばらくは、格さん、助さんを付けて監視させておくが、こういうときは、あまり好きではない「北の魔女」の異名も役には立つ。


 彼らが行っていたのは、アルモルネの粉の違法な取引だった。

 人の目が少なく、コモーン地方との境目にあり、三色団子の着色に使用するため、合法な取引で手に入れた粉を持っているオーダムの茶屋はカモフラージュに最適だったのだ。

 当初オーダムは見て見ぬふりをしていたが、ユーシリアスも育ってきて徐々に罪悪感が溜まってきた。

 またいかにも不自然なミリアがちょくちょく顔を出すようになってきたのも、お上の調査でないかと疑ったのも、足を洗おうとした要因の一つだった。


「事件にしてしまうと、後々の処理が面倒ですからねぇ。たまにお金を稼がないといけないとはいえ、お仕事は疲れるのでささっと終わらせるに限ります」


 知り合いのつてで得た仕事とはいえ、やっぱり働きたくないミリアは簡単な方法を選んだ。

 つまり報告が色々面倒なので逃がしたというだけである。


 けれどその思惑を知らないユーシリアスは感動した目でミリアを見つけた。


「ミネアさん――じゃなくてミリアさん、ありがとうございました! でもなんで名前を……」

「こういうときは偽名がお約束なのです。最近北の谷で見つけて読んだ本が面白くて、どうせお仕事するならと、ちょっと真似をしてみたのです」


 ミリアの答えに、ユーシリアスとオーダムは顔を見合わせて首を傾げた。

 彼女が何の本を読んで真似たのか、全く分からなかったからだ。

 

 ミリアはそんな二人の様子に構うことなく、満足げに笑った。



「ほっほっほ。これにて、一件落着なのです」



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