四 その後は。
夏の朝特有の冷たく爽やかな空気の中、僕は今日も変わらず、通学のための電車をホームで待っている。
あれ以来、反対側のホームに立つ人垣の中に、彼女の姿を見ることはもうなくなった……。
やはり、探し物が見つかったことでもうここにいる必要もなくなり、彼女は
あの夜見た彼女の笑顔を思い浮かべてみると、彼女の魂を救ってあげられたことにすっきりとした爽快感をこの胸に覚える反面、こうして二度と会えなくなってしまったことに対しては、やっぱり
なんだか、思いきって告白して、思いっきりフラれたような感覚だ……。
果たして、あれが正解だったのかどうなのか? それは僕自身判断をつけかねるところではあるが、ひとつだけ確かなのは、もう二度と彼女に会えないのがものすごくさびしいということだ。
これまで同様、電車を待ちながら眺める反対側のホームの光景は、立ち並ぶ人々の層も仕草もなんら変わりばえしないというのに、その風景の中に彼女の姿だけが、
……やっぱり、さびしいよ…………もう一度、君に会いたいな……。
…………だが、彼女のいなくなった喪失感に、思わずそんな弱音を心の中で呟いたその時。
「…っ! ……な、なんで……どうして、また……」
ホームに立つ僕のすぐ目の前に、あの血色の悪い、蒼白くもカワイらしい彼女の微笑んだ顔があった。
今日は線路を挟んだ反対側のホームではなく、僕がその縁に立って電車を待つ、こちら側のホームの、しかも息がかかるかというくらいの超至近距離にである。
「テヘ…やっぱり、あなたのことが気になって戻って来ちゃった」
あまりの驚きと、突然、目と鼻の先に現れた気になる女の子の顔にあわあわ動揺していると、そんな僕の泳いだ眼を覗き込んで彼女は照れ隠しにベロを出してみせる。
……また、会えた……これは奇蹟なのか? ……それに、僕のことが気になったって……。
いきなりのことにまだ状況をよく飲み込めていないのだが、完全に諦めていた彼女との再会と、それに淡い期待を男子に抱かせる、はにかんだ彼女の意味ありげなその言葉に、ぽっかり穴の開いてしまっていた僕の心に再び喜びと感動のみなぎってくるのを感じる。
「だから、行こ? 一緒に……」
「……えっ? わっ…」
そして、今はもう
次の瞬間。
彼女に引かれ、線路の上に飛び出した僕のすぐ耳元で、けたたましい電車の警笛がうるさく鳴り響いた。
(君のなくしものは。 了)
君のなくしものは。 平中なごん @HiranakaNagon
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