非魔術的な世界にて…

平中なごん

序 魔術の定義

 魔術――


 現代にあっては科学と相反する存在のように思われがちだが、本来、それはこの世界の仕組みを解き明かし、そのことわりを人々の生活に役立てようとする学術的な営みであり、いわば当時における科学そのものであった。


 洋の東西を問わず、かつてどの村にも一人はいた魔女や魔術師は薬草と暗示効果を用いて治療を施す素朴な医師であったし、自然魔術や錬金術の研究から今日の化学・物理学の基礎となるものが生まれ、かの万有引力を発見したアイザック・ニュートンにしても、科学者の先駆であるとともにまた一人の魔術師でもあった。


 いたく非科学的に思われるようなその行為も、ただ当時の理論が現代科学の見地からすれば間違っていたというだけのことであるし、また、その現象の起こる仕組みが不可知の超自然的な力によるものと考えられているうちは〝魔術〟と呼ばれ、その力の正体が論理的に解明されれば、それは即ち〝科学〟と呼ばれるようになるという、ただ、それだけの差でしかないのだ。


 もしも、現在〝科学〟と呼ばれているものが〝魔術〟という名でずっと呼ばれ続けていたとしたら、果たしてこの世界はどのような姿になっていたのであろうか?


 これは、我々の住んでいる世界とはほんのちょっとだけ違う、そんな並行世界のお話である……。

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